31話 ステッキの返却
「あらっ、妹さんも来たのね。それにしても、あなた達ってどうやって本土まで来てるのかしら。一応、港湾局には魔法省から根回しはしておいたのだけど、特に報告もなかったのよね」
「そうでしたか。それはお気遣いありがとうございます」
「港近辺の監視カメラにも何の反応も無かったんだけど、空飛んで来たのよね?」
「さあ、どうでしょうか」
「朔丸も藍之助くんもなかなか口が固いのね。私は仲間なのだから教えてくれてもいいと思うんだけどな」
「そうですね。父がそう判断したのなら、お教えしましょう」
「やっぱり、攻略するのは冬獅郎さんしかないのね……」
「それで、朔丸は?」
「今頃、サクラちゃんになってるわ。光美川市で魔力溜りが発見されたのよ」
なんだかんだ言って、一人で信号機トリオのエリアをカバーするのは大変らしい。朔丸であれば倒すのは簡単だろうけど、そこまで向かう移動が大変そうだ。
「朔丸には悪いけど、明日からはゆっくりできるのだから、今日一日は頑張ってもらうわ」
連絡係り兼、魔法少女までやることになるとは、本人も想像してなかっただろう。大型ビジョンな映し出された朔丸の死んだ目を思い出す。
「魔法のステッキ、お返ししますね。故障とかしてないといいのですが」
「海に沈んだ程度なら大丈夫だと思うわ。戦闘用だからそれなりにしっかり作られているもの。それに、故障してたら直るまで魔法少女サクラちゃんがまた頑張ってくれるでしょ」
「ところで、こちらでの朔丸の扱いはどのようになっているのですか?」
「私の弟として市民登録したところなんだけど、今はきっと妹だと思われているわね……」
ネットやニュースでの扱いを見る限りは、完全に魔法少女として人気を集めはじめている。
しかも、伝説の魔法少女シズクちゃんの妹となると、その扱いはまた変わってくる。
すまない朔丸。
「男だとバレたら結構大変なことになります?」
「そのへんは朔丸も理解してると思うから、変身する時は注意していると思うわ。もちろん、声でバレないように無口なキャラ設定にもしているみたいだし」
朔丸、しばらく苦労をかけるが今は耐えてくれ。
「それでは、僕たちは戻りますので、何かありましたら朔丸に連絡をお願いします」
「あらっ、もう戻っちゃうの?」
「あまり門を離れるわけにもいきませんからね」
「それもそうね。あっ、それから気になることがあったから一応伝えておくわ。こちらからは二点。一つ目は魔導哨戒機とパイロット二名が御剣島付近で行方不明になっているそうなの。そちらで何か情報はあるかしら?」
「それにつきましては、御剣家にて二名のパイロットを救助しております。哨戒機の方は大破しているようです」
「そ、そう。ま、また貸しが……」
「二つ目は?」
「二つ目は、お恥ずかしい話なのだけど、実は、魔法少女育成学校から二名の魔法少女候補生がいなくなってしまったの」
「いなくなった? それはやめたとかではなくですか?」
「そう、文字通り消えてしまったの。候補とはいえ魔法少女が消えるというのはちょっと考えられないわ。変な動きをしている派閥がある以上、早急に対応していくつもりだけど、また迷惑をかけるようなことがあってもなんだから……」
問題が起きたから先に伝えておこうということか。それにしても、曲がりなりにも魔法少女が一般人に捕まえられるというのも無理がある。
捕まえるにはそれ相応の準備と、かなりの人手が必要になるだろう。そんな大掛かりな準備をしていたら目につかないはずがない。
「何か手伝えることがあればおっしゃってください。まあ、明日からは朔丸も動けるでしょうし、気になるところを調べさせるのもいいでしょう」
「朔丸を使ってもいいの?」
「すでに魔法少女として使われていると思うのですけど」
「これはまあ、ステッキが戻ってくるまでの応急処置的な感じだったのだけど。そういうことなら、ありがたくお手伝いしてもらうわ」
朔丸には、連絡係りとは別に敵対派閥や政府の動きを追うことを本来の任務としている。今回の件とは決して無関係ではないだろう。
「それでは失礼いたします」
※※※
魔法省を出ると、タイミングよく朱里姉さんから連絡が入った。パイロットを戻さなければならないので、残念がることだろう。
と、思っていたら、かなり切迫した状況の連絡だった。
『ちょ、ちょっと、藍之助、イフリートが合体してるんだけど!? こんな話聞いてないわ』
『お姉さん、ド、ドラゴンになってるです! ヤバいです!』
『えーっと、どういうこと?』
『いいから、早く戻ってきなさい! 私だけじゃ対処出来ないかも』
イフリートが合体してドラゴンになっただと!? 星那を見ると、意味がわからないといった感じで首を傾げていた。イフリートが今までにない動きをしているらしい。
『わかった。すぐに行く』
こういう時に瞬間移動って便利だなと思う。




