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2話 魔法少女

今は、魔法少女を家に運んで父が事情を聞いているところだ。回復魔法をかけるとすぐに元気になったのだが、どうやらこの魔法少女、訳ありらしい。


「それで、どうやってこの島の場所がわかったのだ? ここに来た理由を言いなさい」


政府と御剣家との相互不可侵条約を破って堂々とやってきたので、この魔法少女に言い逃れは出来ない。まあ、自分もたまに瞬間移動で本土に行くことはあるが、政府に見つかるようなミスはしないし、もちろん危険を感じたこともないので大丈夫なはず。


「す、すみませんです。初めてのことばかりで、本当に島があるのもびっくりでして……。お、怒ってますですか?」


「不法侵入なんだ、当たり前だろう。いいから、早く答えなさい。何故、この島に来た」


「こ、この場所のことは魔法省から聞いてきました。緯度と経度は教えてもらったので、何とかたどり着けてホッとしてますです」


父に向かって恥ずかしそうに決めポーズをしながら、目の近くでピースサインしているのが件の魔法少女だ。ピンク色のフリフリで派手な衣装に魔法を使いやすくするらしい魔道具のステッキを片手に持って片足立ちしている。


「君はふざけているのかな?」


「あっ、いえ、これは研修で習った魔法少女のご挨拶のようなものでして……」


「藍之助、そいつを本土へお返ししなさい」


「はい、かしこまりました」


「ちょっ、ちょっと、待ってもらえますですか。じ、実は、この島周辺の海域に異常な魔力反応が出ていまして……。普通の魔力溜りとは違うみたいなのです。このままでは、この島も大変なことになってしまうですよ」


確かに、周辺の海域で異常な魔力反応が出ているのは本当のことだ。嘘は言っていないのだろうが、こいつは政府から派遣されてきているスパイの可能性もある。


「そんなことは知っている。こちらが聞きたいのは、相互不可侵条約を破ってまで御剣島に入り込んだ理由だ」


「ま、魔法省はこの異常事態にとても混乱しているようでして……。私をここに派遣したのは、ある派閥の魔女様です。もしも異界の門でも出現したら周辺は大変なことになるって、だから……」


「政府より早く動くことで、御剣家の力も使って対処してしまえばいいということか?」


「は、はいです。場所が場所だけに協力して未然に防ぐようにと言われております。本土からより、この島から対処する方が近いですし……」


再び逆側に恥ずかしそうに決めポーズをしている魔法少女を見ていると、もはやため息しか出ない。どうやら、この魔法少女は自分の力もわかっていないらしい。それに、この話を信じていいかの判断もつかない。


通常、調査協力をお願いするにしても、御剣島には電波塔もないので、直接島に来るしかない。本来なら事前に渡航許可を父にとってからの訪問になるのだろうが、この魔法少女は何の連絡もなしに入島してきた。これは普通に殺されても文句は言えない。そうまでして島に来た理由は、緊急事態とその魔女の独断ということになる。


ちなみに魔女とは、力を失わなかった魔法少女のことをいい、力のある極一部の魔法少女だけが、二十歳を超えても魔女として存在し続けるのだと聞いたことがある。


「とりあえず魔女の名を言ってもらおうか。言えないのなら、お前はすぐに本土に戻ることになる」


「ま、魔法省大臣政策参与、月野雫様です。そしてこれが、月野様からの書状になりますです」


思ったよりもお偉いさんなのだろうか。父の表情が、雰囲気が少しだけ変わったような気がする。誰かの依頼で来たのなら、先にそれを渡せ、フリフリピンク。


「月野か……なるほどな」


「父上の知っている方なのですか?」


「うむ、一度だけだが、当主に就いた時に珍しく政府が挨拶に来た時があっただろう。その中に月野と名乗る魔法少女がいた。藍之助は覚えてないか? その時代で一番強い魔法少女だと言っておったが、どうやら魔女になったらしい」


父が当主に就いた頃となると、僕が八歳ぐらいの時だ。本土から人が来るということで、どんな奴が来るのかと会談の場所を覗いていた記憶はある。一際大きな魔力を持った少女、そうか、あの時の魔法少女か……。


「月野様は、トップクラスの魔力を持つ日本最強の魔女様です。私の憧れで、目指すべき目標でもあるです」


「お前の話など聞いていない。ただ確かに、この書状は月野女史からの物で間違いないようだな」


書状には魔法で特定の人でないと封を開けられないようにされていた。この場合、父を特定するのは難しいので、この魔法少女が手渡した人にのみ封を開けられるようにしたのだろう。そして、開かれた書状にはホログラムのようなもので魔女が現れて、父にのみ聞こえるように書状を読み上げている。


ただ、この程度の魔法少女に大事な手紙を託すなど、本土の魔法少女のレベルが知れてしまう。あの時見た魔法少女は、少なくともこいつの何倍もの魔力を包有していたはずだ。


「なるほど、政府は相変わらずのようだな。それで、お前の名は何という?」


「わ、私ですか? 私の名前は、魔法省御剣島支部に新しく就任することが決まった新人魔法少女、エリーゼちゃんです」


「何? 御剣島支部だと!」


「藍之助、私もその支部名には言いたいこともあるが、しばらくの間、このエリーゼさんを御剣家の食客として迎え入れる」


「父上、誠でございますか?」


「少なくとも、月野女史とエリーゼさんは御剣家の味方になるということらしい。政府を信用するつもりはないが、月野という魔女は信用してもいいと思っている」


「父上がそう仰るのなら……」


「星那、エリーゼさんに部屋を案内しなさい。必要なものがあれば、この星那に話をするといい。歳も近いし、話も合うだろう」


「かしこまりました」


廊下に控えていた妹の星那が、一礼して部屋に入ると、エリーゼを連れて案内していく。


「あ、あの、話は、まだ終わってないのですが……」


「すまぬな。こちらもこちらで話し合いが必要になる。私個人の考えとしては、月野女史の話に乗ってもいいと思っているが、みなの意見も聞かねばならぬ」


「わ、わかりましたです。魔法少女になったばかりで、職を失いたくはないので、何卒よろしくお願いしますです」


何故、父がこの魔法少女を必要と思っているかは、この後の話で聞かされるのだろうけど納得は出来ていない。この程度の魔力溜りなら、自分一人でも対処出来るはずなのだから。

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