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八話 〜委員長を求めて

 なだれ込むように開いたドアから入ってきたのは、さっきのウェイトレスさんだ。


「……お、お嬢が人質に……!」


 僕らに差し出してきたのは、スマホ。

 その動画を見せようとしてくれるのだけど、ウェイトレスさんの手が震えてうまく再生されない。


「貸してもらう!」


 朱がむしり取り、小さな手のひらに乗せ、再生マークをタップした。


『こういうのは、人がいたほうが楽しいじゃないのょ? 四十九階層の東一〇九九廃ビルで待ってるょ……早くこないと、この子の血、全部飲んじゃうょ』


 真っ黒な容姿だが、まさしく影だ。

 黒い面に、黒い鎧。そしてなにより、腕が異様に長い。いや、身長自体も長いのかもしれない。

 たった十八秒の動画。

 でもこれだけでわかる。


「……暗殺者だ……」


 僕の言葉に朱がうなずきで同意した。

 すべての動きに無駄がなかった……。

 委員長の口を抑える手の先は、ナイフになっていて、簡単に刺し殺せる。もちろん刃に毒だって塗られているのだろう。

 そして、委員長の胴に巻きつかせた腕……。

 異常に長いように見えるけど、あれは関節を外し、さらに骨を蛇腹状にカスタム……?

 とにかく、異常な腕の動きだ。

 最後の映像から消えた姿は、間違いなく蒸気靴で移動しているだけだけ。

 だけど、超高速だ……。

 もしかするとアビリティの類かもしれない───


「……なんだよ、あれ」

「こいつは、”手長足長”だ」


 その名前に聞き覚えがある。

 スマホに入れてある暗殺者指名手配犯一覧を広げると、……いた!



 等級:最上一級

 和名:手長足長

 洋名:ノスフェラトゥ

 イギリススパイから、世界指名手配犯へ。

 手配犯となった理由は、人を多く殺すため。(依頼した暗殺人数よりも、ずっと多い人数を殺すから)

 異常に長い手足が特徴。さらに、その腕・足での攻撃は間合いが取りづらい。

 イギリスでは血を抜き取って絶命させることから、ノスフェラトゥ(吸血鬼)と呼ばれている。



「ほう、隼、端的ながら的確にまとめてあるな!」

「御煙番になるのが夢だったから……そんなことより委員長、助けに行かなきゃ……でも、どうやって助けるの?」

「ボクに聞くか!」

「天才なんだろ?」

「確かにボクは超天才だが!」


 僕らの痴話喧嘩を割るように、店の主人だろう男がぬっと現れた。


「てめぇ、うちの娘に一つでも傷つけてみろ。腕ちぎって、腹に生けてやる……」


 この方はお父様……!

 強面で、紺色のスーツはまさしく!

 四〇階層では、普通のお仕事だけれど、目の当たりにすると、胃が痛い。

 逆に、あのおとなしい委員長が、『お嬢』と呼ばれた意味がわかったかも……。


「そういうことだ、隼。隼の右腕はすでにないから、次は左だな」


 朱は僕の右腕を簡単に外すと、お父様の目の前に掲げあげる。


「あ、ちょ、僕の右腕!」

「この腕があれば、ご主人の娘はしっかり助けられる。少し待っていてほしい。ちゃんと迷惑料の金も払うから安心しろ!」


 ずいっと前にでたお父様は、軽々と朱の胸ぐらを掴み、持ち上げてしまう。

 ぽいっと腕を捨てられ、慌てて腕をくっつけながら、おろついてしまう僕。

 だけれど、朱の顔は冷静だし、むしろ微笑んでるぐらい……。

 どんな肝の座り方してるんだ、香煙家当主候補って。


「おい、チビの嬢ちゃん、金とかそういうことじゃねぇんだよ。うちの娘はなぁ、蒸気街でOLするのが夢なんだよ! 顔にでも怪我してみろ! 蒸気街にも行けねぇだろうがっ!」


 白い泡がはげしく飛ぶ。

 朱は制服の袖で顔を拭うと、なんと、ため息をついて見せた。


「別にそんなことで差別する街ではない。常識と理性をもっていれば問題ない。ただ、区別をしっかりする街だとだけ、伝えておくよ」


 言い方が気に食わなかったのか、正論だったから苛立ったのか。

 なんにせよ、委員長のお父様が拳を作って、大きく振りかぶったのは間違いない。

 僕は再び動いてしまった。

 その大きな拳を止めようと、僕は意識を向けた──


「な、なんだ、その腕っ!」


 お父様から裏返った声が聞こえる。

 僕も呆気にとられてしまった。


「……伸びてる」


 まさか拳を掴むために腕がのびるなんて、思ってもみませんでした。

 ……結構、キモい。


「……あの、とにかく! 僕と彼女で委員長を助けてきますんで。ちょっと待っててくださいっ」


 朱の襟首をひっつかんで、僕は店を飛び出し、走り出す。

 いつもの癖で、裏道に入り、ビルの隙間をつたっていくけど、思えば支払いも何も済ませていない。


「支払い、忘れてた……」

「そんなもの、迷惑料と一緒に返してやる! いやぁ、腕が伸びたのはすごかったな、隼!」

「それよりも、リュック、リュックは!?」

「そう焦るな! すっかり置いてきたぞ!」


 ケラケラと笑う朱がわからない。

 僕は地面に崩れてしまう……。


「……リュックもないし、さらに最上一級手配犯なんて……僕がどうにかできる相手じゃないじゃん……!」


 そう、我にかえってしまった。

 改めて自分が何者なのか、気づいてしまった……。


 僕はただの高校生で、御煙番マニアなだけで、戦うことなんてできない───


「お前の右腕は最新の鎧だ! それを使えばどうにかなる!」

「ちょっと、簡単に言わないでよ。腕一本でどうにかできるわけないじゃん。朱だってどっかに隠さなきゃいけないのに」

「馬鹿者。逃げて隠れて生き延びようなどという輩と一緒にしないでほしい。お前の死に様はしっかりみてやるし、ボクもそのときは死ぬ。共倒れだ」

「だめでしょ、それじゃ!」

「いいんだ。本当であれば、一般人である隼を巻き込んだことが間違いなのだ! 隼に隠れてもらい、ボク単独で乗り込むのが本当は正解なんだ」

「もう君の鎧は僕の腕になっちゃってるし、逃げられないよ。ここで仮に僕が逃げても、この鎧を取りにシラカバたちが来るわけでしょ? もう、どうやっても無理ゲーじゃん……もう死にたい僕だからね、どこかいい区切りだと思ったら死ぬからね? いいよねっ!?」

「かまわんよ」


 薄く笑った朱の顔が、僕には理解ができなかった。

 どういう考えがあってのことかもわからない。

 とりあえず、集合場所に向かうまでに作戦を考えないといけない───!


「助ける策、よく考えないと……」

「いやぁ、隼、あの麻婆豆腐、美味だったな! またゆっくり食べに行きたいな!」

「朱はなんでそんなに未来にポジティブなのかな……」

「この瞬間は生き延びたんだ。少しは幸せを嚙みしめようじゃないか!」


 笑ってしまった僕だけど、確かにあの中華は絶品だった。

 三歩だけ、幸せに浸ろうっと。

お読みいただき、ありがとうございます!

応援・感想いただけますと、励みになります

よろしくお願いいたします


二人の危機は全く去りません……

これから手長足長に、どう立ち向かうのか?

乞うご期待です!

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