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三十六話 〜死際を求めて・再び

 もう、息が、できているのかもわからない。

 僕の目の前にある足をつかもうと、腕を伸ばすけど、まるで汚物でも避けるように、足をスっと引き下げた。


 綺麗に磨かれた高級な革靴だ。

 ツータックのスーツの裾は埃すらつかずに、シワなく折られている。


 僕が迷路街で這いつくばって生活している中、コイツは、悠々自適に生活してたのか………。


 妙な気持ちだ。

 複雑すぎて、言葉にならない。


 憎しみを差し込んでいた足が、消えた。


 無理やり視線を広げると、親父を盾に立つシラカバがいる。


「最後まで俺の役に立てよ、お父さん」

「約束は守っただろ! 離せっ!」


 暴れる親父に蹴りが入る。


「痛い! 蹴らなくてもいいだろ」

「まだなんだよ。俺が爆弾を創る時間を稼いでこい。それに朱様を起爆させていない!」


 操作板を伝って立ち上がった僕を、シラカバが視線に捕らえた。

 それにしても、あれだけ大怪我させたのに、どんな体力してんだよ……!


「もういい。朱様だけでも、殺す……起爆……なんだ……? 起爆が、起こらない?」


 焦るシラカバに、僕は笑ってしまった。

 声にはでなかったけど、口は曲がっていたはずだ。


「なんだ、隼!」

「もう、朱の……体に、ない」

「何を言ってる! アレが消せるわけないだろ!」

「血液、替え……」

「……は…………」


 シラカバの声が消えかかる。

 僕の足らない言葉で、意味がわかったのだろう。

 色白の顔が、改めて青くなっていく。


「嘘だ……嘘だ! ()()()()、わざと外して、生かしてやったのに……! お前が()()()()()()()()()っ!!!」


 今の言葉に、僕は目眩がする。

 いや、実際、目眩は始まってる。

 ただ、シラカバの言葉を噛み砕いて理解すると、僕は、腕の潰し損だった……のか?

 現実が痛い!!!


「なぁ、隼、助けてくれよぉ! お父さん、まだ死にたくないっ!」

「黙れ! 俺の盾になれよっ!」


 目の前がもう、霞んできた。

 あんなのも、助けなきゃいけないんだろうか………。

 ここであの男の息の根を止めても、僕に責任はないんじゃないだろうか……───



「な、なんだ、隼、その目は……冷たい目だな! 母さんとそっくりだ!」



 無い血が頭に上る。

 腕を振り上げたとき、


『同じ土俵に立つな!』


 朱の声がする。


「そっちには………行かな……い」


 僕は残りの蒸気を足に集中させる。

 もう体がうまく動かない。



 でも、この一撃だけは、決める───!



 シラカバも体力に限界がきているようだ。

 逃げる態勢に入っている。


 僕は踵に溜め込んだ蒸気を一気に開いた。

 僕の体はロケットのように進んでいく。

 親父を抱えたせいでうまく動けないシラカバは、狙いやすい。


 鎧のおかげでかろうじて保たれた姿勢。

 腕はレイピアのように鋭いままだ。ちょうどいい。


 勢いよく、僕は貫いた。


「がぁぁ! 痛い! 痛いぞ、隼!!!」

「うるざいっ!!!!」


 僕は血を吐き散らしながら、僕はさらに刀を奥へ差し込んだ。

 黒い刀は、父の肩を貫き、シラカバの肺の上をかすめていく。


「咲けっ!」


 シラカバの背まで突き抜けた僕の刀から、赤い花が咲く。

 それは全て、シラカバの中に溜め込まれた爆弾の塊だ。

 ただ血液を抜き出す方法しか思いつかなかったため、結構な血を蒸気で咲かしてしまった。


 ……でも、綺麗だな。


 僕は声にだせないまま、呟いた。

 大きな大きな紅蓮に染った百合の花を、辛うじて戻せた右腕でもぎりとると、遠くの地面に投げつける。

 小さな地鳴りが起こり、赤い飛沫が舞い上がる。


「貴様……何を、した……」


 微かに傷ついた肺に血が流れ始めたのか、すでに膝を落としたシラカバの息が苦しそうだ。

 僕だってもう立ち上がれない。

 痛い痛いと泣き喚く父は僕を介抱する気もないらしい。


 もう僕は応えることもできない。

 耳が最後まで残るって言ってたけど、本当みたいだ。

 視界も歪んで薄暗くて、昼か夜かもわからない。


 たくさんの雑踏が聞こえてくる。

 蒸気の雑踏だ。

 草木が揺れる音みたい。

 綺麗な音だな。


 ふと、体が浮いた。

 抱え上げられたんだ。


 かろうじて、輪郭が見えた。

 大好きな僕にはわかる。



 ───天狗の面だ。



「大丈夫か、隼!」



 この声は間違いない。

 ヒロカだ。

 ヒロカが、僕の名前を呼んだんだ。



 どう、母さん?

 これで、少しは、胸を張って、そっちに行けるかな………

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