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二十九話 〜未来を求めて・再び

「やっぱり、それ、無理なやーーーつ!!!!」


 こう叫んだのは何度目だろう……。


「そういってもさ、隼ちゃん、オレは朱ちゃんの看病あるし」

「ぼくがついていくから、少しは落ち着いて」

「だって、それ、基本、僕がシラカバと戦うじゃん! そうなるじゃんっ!」



 ……作戦を聞かされたわけだけれど、絶望だらけだったんだ───



「まず、隼ちゃんとベニギンランで蒸気街の蒸気管に進入。セントラルタワーまで蒸気に乗って移動し、シラカバと対決!……隼ちゃんが」

「……は?」

「ぼくはいくまでの間にあるトラップを外したりとか、あとは玉藻前を引き受けるから、木場くんには、シラカバを倒して欲しいんだ」

「軽く言わないでよ!」

「ダイジョブだって、隼ちゃん!……まぁ、事情もあってさ。御煙番としてはシラカバと対決するは無理なんだよねー」

「いや、は? なにつらっと言ってくれてんの? こっちの方が無理でしょ。無理! 僕は素人の高校生だよ!? まだベニギンランがいっしょだからちょっと安心するけど、結局、僕が戦うって……やっぱり、無理だって。僕だって朱を助けたいけど、無理だよ……だって、僕はただの高校生だし……無理だよ!」


 でも、助けたい……!

 だけど、またあの痛い思いをしなきゃいけないなんて……。

 だけど………でも、だって、僕は……


 気持ちが堂々巡りしてる。


 だけど、踏ん切りがつけられない……!

 裾があがった診察着は、僕の膝が出てしまう。

 うっすらと残っているのは、戦った傷だ。

 骨が折られ、斬られた場所が、傷は治っているものの白く線がついている。

 それも、たくさん、だ。


 ……また、これが増えていくのか。


 怖い。

 ただ、怖い。

 恐怖が先に来てしまう。

 さっきまでは、一つでも前へ、朱のために戦いたいって思ってたのに……!


 だけど、いざ、戦えって言われると足がすくむ。

 今まではなし崩しに戦っていたけど、今回は『戦いに行かなきゃいけない』。


 重さが、ぜんぜん違う──


「ちょっとちょっと、男だったらシャキッと受けなさいよ! 朱様と約束したんじゃないのっ?」


 背中をばしりと叩かれた。

 振り返ると、桃色に染まった蝉丸の面をつけた御煙番がいる。


「このユメミが付き合ってあげるんから、喜びなさいっ!」



 鎧も桃色に染められて、水色髪のお団子頭がトレードマーク───



「……へ……!? くの一の中で、ルーキートップの、ユメミさん……? あの、世界手配犯の百目を一人で確保したっていう?! 上位になるの間違いなしで、次の地区割りでは、日高地方の頭になるって噂もあるっ!?」

「よく知ってんじゃない。そ! このユメミが来たんだから、堂々と戦いなさいよ、隼っ」


 再びバチリと背中が叩かれる。

 二の腕と太腿があらわになった鎧だけれど、ユメミさんの戦い方では邪魔なのだそうだ。

 【御煙番・くの一解説本】に載っていた。お気に入りの本でもあるので、予備もしっかり保存済みだ。


 ユメミさんは健康的に日焼けした肌に、少しむっちりとした見た目だ。

 もうそれだけでドキドキしちゃう。

 ……けど、本当に、ユメミさんもいっしょに戦ってくれるの……?


「隼、ちょっと、なに、その目? 嘘だとか思ってるわけ? 確かに御煙番で動けるのはユメミとこの花火オタクの双子しかいないけど、本当に本当だからっ」



 僕の心が一気に桃色に……!!!



 スレンダーボディに、許容範囲の胸の大きさ。

 動くとぷるんと揺れるくらいの程よい感じね!

 こういうのも心くすぐられちゃう……。

 朱みたいに、ばいんばいんは、やっぱり品がないし……。ま、本物の朱の胸は平野だったけど。

 ユメミさんの、たくましくもしなやかな腕、そして、おみ足が見える……!


 これを横目に眺めながら戦えるなんて、やっぱり僕は今日、死ぬ日なんだな──!!!



 ひとり希望に浸っていると、僕の横腹が突かれる。


「ねーねー、なんで隼ちゃんさ、ユメミに『さん』つけるの?」

「え? 女の子にはさんをつけろって、母から」


「「「キモい」」」


 まさかの三人から……!


「しょうがないでしょ? 幼い僕への遺言みたいなものだし、守っちゃだめ?」

「……それ、ちょっと重い」


 ユメミさんの声が露骨に嫌そうだ……。

 でも、母の言葉は一つ一つ大切に僕の心に刻んであるんから、仕方がないじゃない!


「でも木場くん、朱様のことは呼び捨てじゃない?」

「それは朱が呼び捨てでいいよって言ったから」


「「「そこは守ろうよ」」」


「みんなでツッコミしないでよ……。でも、それより、なんでみんな、キリ爺のところ(ここ)にいるわけ?」

「おう、ここは御煙番も使ってるからな」

「……は!? いつからキリ爺、いたの?」


 のっそりとベッドの影から現れたキリ爺は、にっかりと笑顔をつくる。

 黒い歯が白い部屋によく映えている。


「つか、キリ爺、今なんて言ったの……?……え?」

「おう、耳が悪くなったか? 御煙番も出入りする場所だっつーの! これでもわしは、迷路街の情報屋だぞ?」


 がははと笑いながらキリ爺が僕に差し出してきたのは、真っ黒に塗られた弱法師の面だ。


「この面はな、カリンが下位のときに使ってたものでな。さらに弟子のヒロカが受け継いで使ってたものだ」


 手渡されたけれど、何度も修理したあとが残っている。

 それは数多の戦いの結果でもある。

 どれだけの戦場を、絶望を、この面は見て、潜り抜けてきたんだろう?

 激しい過去が刻まれているのを指でなぞりながら、この面をかぶっていたヒロカは、僕みたいに何度も挫けそうになったんだろうか……。


「すごい、面だね……」

「おう、そうだろ? それ被って、げんを担いで、戦いに行ってこい!」

「ちょ、何言ってんだよ、キリ爺! 僕がそんな面を預かるなんて……僕なんて……だって……なんもないし……無理だよ! だいたいなんで、キリ爺がこんな面持ってんだよ!」


 怒鳴る僕にがははとまた笑う。


「おう、隼よ、あの香煙朱を助けにいくだろ? これから世界を牛耳る女だぞ! 箔つけて行ってこい。あのシラカバを倒すのは、お前しかいないんだぞっ!」


 仁王立ちのキリ爺が、今日は大きく見える。

 僕の心が弱くて脆くて、自信がなくて、ここにいること自体が不思議なのに……。



 ──なのに、僕を見るみんなの目が『できる』と言ってくる。



「どうする? 木場くん」


 俯いた目に、傷だらけの面が僕を見る。

 今は、面の力を借りてもいいだろうか……。

 勇気がでない僕に、君が生き抜いてきた力をわけてほしい。

 あの憧れのカリンのように、そして、ヒロカのように、僕を御煙番に成りきらせてほしい────



「……僕ができることを、やろうと思います」



 僕の声に呼応するように、面が白く光った気がした。

 ……僕の戦いが、これから始まる。

お読みいただきありがとうございます!


最終決戦、始まります。

お楽しみに!

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