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十八話 〜潜伏者を求めて

 一人張り切るのは朱だ。

 あちらこちらの武器を手にしながら、あーでもない、こーでもないと、彼女らしく呟いている。


「よし! 隼、ボクは飛び道具を持つことにする。この網がぶわっと出る銃と、電気を撒ける銃だな。小型だし、使いやすそうだ! 隼、小刀とかどうだ?」

「……え、あ……あ、小刀? 小さいナイフ? いや、苦無あるし……」


 朱の独断場だ。

 あれやこれやと世話を焼かれ、僕は一つ一つを確認しながら、ひたすらに断っていく。


「意外とワガママだな、隼は!」

「違うよ。装備のバランスも考えないとうまく飛べないでしょ?」

「そんなもの、ボクが調整するから気にしなくていい!」

「……天才って、発想がなんかスゴいね……」


 鎧の装備を整え一度脱いだ僕のところへ、キリ爺が、もう一つ、カゲロウから置き土産があるという。


「おう、これ見てみろよ」


 メモリーチップだ。

 鎧の手首にはめ込むと映像が見られる。

 今、僕の腕は鎧のため、その機能もあるという。

 蒸気に映像を投影する仕組みで、3D展開もでき、立体的に地図や建物の構造を見ることができる。さらに音声ものせられ、隠密にとって今や重要な機能となっている。


 慣れない手つきでチップを持っていくと、鎧がパクっと食いついた。


「……こわっ」

「指まで食わん!」


 すぐに画像が現れ、再生と書かれた文字も浮かぶ。

 僕がそれをタップすると、すぐに画像が動き出した。


『これ見てるってことは、体は大丈夫だな? よしよし。……そのさぁ、地図の映像出てると思うんだけど、そこに、潜伏してる奴がいるって聞いてさ。もしかしたら隼たちをつけまわしてるヤツかなって。ちがってたら申し訳ない。あと、潜伏してる奴は、ゴブリンって話。じゃ! 行くなら、気を付けて行くんだぞっ』


 あまりに眉唾物の話に僕は固まってしまう。

 だけれど、朱は真剣な顔つきで固まっている。


「信憑性が高いぞ、隼」

「嘘でしょ?」

「本当だ。胴体の鎧を持っているのは和名が河童という暗殺者だ!」

「河童ってあの、河童……?」


 僕はすぐにスマホを操作する。

 そこにあるのは暗殺者指名手配犯一覧だ。


 等級:最上二級

 和名:河童

 洋名:ゴブリン

 一三〇㎝程度の身長と筋肉で覆われた体は一三〇㎏という、未来型ロボットを彷彿させるフォルム。

 標的の骨を折り、内臓を潰しながら殺すのが主なやり方。


「……最近の暗殺者だから、情報が少ないな……。手長足長より一級落ちてはいるけど、とはいえ、最上クラスに変わりがないって、もう、詰んでるよね……」

「それはしょうがないだろ。中級や下級の暗殺者がシラカバの仲間になるはずがない」

「そりゃそうだけど……」


 スマホで検索をかけても情報が全く出てこない。


「暗殺件数が少ないからだなぁ。参ったな……」

「最近、暗殺はあったのか?」

「いや、ここしばらくないよ。去年の年末に1件が最後。……ね、朱は鎧を盗んだのを全員見てるの?」

「いや。強奪に来たのは、シラカバと河童の二人だけだ」

「そっか」


 鎧の最終調整はキリ爺に任せることにし、僕らは作戦会議だ。

 タブレットに地図を移し、クルクルと見て回る。


「河童がいるのは、五十七階層、二二〇四七号採掘(さいくつ)選別処(せんべつどころ)か。四年前にできたばかりなんだけど、もう閉じてる選別処だね」

「何があったんだ? 殺人か!」

「言い切らないでよ。オーナーが蒸気街にクスリを流してて、それで」

「もっと怪談系の理由かと思ったのに!」

「残念でした。ふっつーの理由だよ」


 朱はタブレットを睨んで唸っている。

 腕組みをしているけれど、腕の上にたっふりの胸がのっていて、胸を持ち上げてるのか腕組みなのか、正直わからない。


「隼、ここで河童を出し抜けるだろ!」

「言いきらないでって。河童のアビリティがわかれば違うけど、とにかく怪力しかわかんないし……」


 僕も同じく腕を組んで悩んでいると、朱は目がこぼれそうなほど見開いた。


「なななに?」


 手を叩きながら朱が立ち上がる。


「河童は、女だ!」

「……! ……それ、そんなに重要じゃない」


 二人で残りのサンドイッチを食みながら考えてみるけれど、侵入口は正面しかなさそうだ。

 選別処の状況がわからない以上、無闇に入れば即死につながる。無駄死には避けたいので、奇襲作戦よりかは勝ち目がありそうな気がする。……気がするだけだけど。


 ルートをざっくりとタブレットに描きながら、僕は改めて朱に向き直った。


「……朱はここにいてよ」


 胡座をかいてタブレットを見る僕の下から、朱が覗き込んでくる。


「なぜだ!」

「近い!」


 僕が低い朱の鼻をおしやりながら言い聞かせる。


「本っ当に危ないし、朱を守るのが僕の役目でしょ?」

「ダメだ。隼ひとりを危険な目に合わせるわけにはいかない!」

「でも君が生き延びないと、この右腕は守れないじゃない」


 僕が右手を見せると、朱は地団駄を踏むように立ち上がった。


「だ、だいたい隼は、初めての全身の鎧だろ! 不具合は絶対に出る。そのフォローをしなくてはならないっ」

「そんなの大丈夫だよ」

「馬鹿者! いつだってボクたちデザイナーは絶対の安全を掲げてるんだ! 初めての場合、体とのリンクに不具合が出ることが多い!」


 然もありなんと言い切るが、僕は全く聞いたことがない。

 これは、当事者じゃないから知らない、のではなく、扱う人たちの口コミをつぶさに見た結果だ。


「はい、ダウトー。そんな話はないです」


 僕がタブレットにルートを書き込んでいると、画面を遮るように、朱の手がにゅっと出てくる。


「おいおい、隼はないのか? ぴったりの革靴だと履いてはみたが、三〇分もしないうちに靴ずれで歩けない、みたいなことは?」

「……ある、けど。ちょっと、手、邪魔……」


 さっさかと僕の目の前に動く朱の腕を避けながら、改めて地図と睨めっこを始めると、朱は僕からタブレットを強奪した。


「それだ、隼!」

「ちょっと、返してよ。だいたいさ、靴ずれだったらさ、ちょっと我慢したら歩けるじゃん」

「バカモン! じみーに痛いのが続くのが好きなのか?」

「嫌だけど」

「それを和らげられる、サビオの役目が、ボクなんだぞ!」

「へぇ、朱でもサビオって言うんだ」

「なんだ?」

「サビオって、北海道弁。ふつーは絆創膏でしょ?」


 一瞬固まった朱だが、ふと、納得した顔をする。


「だから、内地の人間に言ったら、驚かれたのか……ま、とにかくだ! ボクを連れて行け! 足手まといにはなるが、しっかり鎧のアドバイスはしてやれるぞっ」

「……もー……」


 タブレットに手を伸ばすけれど、僕が『いい』というまで返さない気のようだ。

 背中にタブレットを差し込み、隠してしまった。


「……あー、わかったよ。だから邪魔しないでって」


 朱は満足そうに笑顔を散らしている。

 シュガートーストの最後のひとカケラを口に放り込むと、彼女の小さな頬が角ばった。そして、ぺろりと指を舐める。

 満足そうな顔で僕の作業を見ている朱は、ただのデザイナーで、これから死ぬような女の子には見えない。


 ──だから、騙されたんだ。朱に。


 いや違う。

 僕が甘かったんだ……。

 何もかもが甘かった。


 殴って縛って、鍵のついた部屋に閉じ込めておくべきだったんだ────

お読みいただき、ありがとうございます!

感想など、応援いただけると励みになりますので、よろしくお願いします


今回、北海道弁を少し散りばめてみました

楽しんでいただけたら( ¤̴̶̷̤́ ‧̫̮ ¤̴̶̷̤̀ ) ✧

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