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十六話 〜平穏を求めて

 パンを口から戻しそうなほど青い顔の僕を見て、朱は一人涼しい顔だ。


「朱、まず、……薄々感じてたけど、キリ爺たちに話したの……?」

「ここは迷路街だ。『地獄の沙汰も金次第』というだろ? すべて金で解決済みだっ!」


 仁王立ちになり、ポニーテールを揺らしながら彼女は言うが、それに驚きはない。


「……で」

「反応が薄いな!」

「お金で解決したならいいよ。で?」

「で? とはなんだ! 隼のために、高級ナノケア点滴と、ここの匿ってもらう代金、あとは諸々に関して、ボぉクぅがぁ! このボクが! お金を払っているっ!」

「……ちょっと、ナノケアって……治癒マシーンを僕に入れたってこと……?」

「そうだが。怪我はすぐに治る。というか、治っている。素晴らしいだろっ!」


 僕の全身が肌が粟立った。


「……うわっ! キモっ! キモい……今も体のなかにいるの!? わー……キモ……!!」

「その反応は想定していなかったな!」


 そんなことよりも……。

 僕は頭を抱え直した。



 ───体内にナノマシーンが入って治癒してることより、パレードが早まったことの方が大問題だ!!!



「……キリ爺、パレードって早まったって、いつ?」

「おう、明日の三時だな」


 僕の目が泳ぐ。


 明日?

 明日って言ったよね?


 ……言ったよね?


「明日ぁぁぁぁ? しかも、三時って夕方?!」

「おう、叫ぶなよ、隼。傷にさわるぞ。それに、早朝にやるわけねぇだろ」


 僕はベッドから立ち上がると、悠々と食べる朱の肩をつかんだ。


「ねぇ、もう、無理なんじゃない? つか、なんで早まったの? わかる? おかしくない?」


 僕の手を埃をはらうように払うと、首を横に振った。


「それは簡単だ、隼。身内からのテロリストを捕まえる前に、パレードをしたいからだ」

「え、普通、逆じゃない?」

「違う。パレードをし、そのときの香煙当主が、私との縁を切ると宣言したいんだ」

「それなら今、テレビ越しに放送すればいいじゃんっ」

「それではだめだ。ボクは当主候補。それだけに立場が重い。事実確認を進めているところだろうが、そんなことはどうでもいいだ。公の大事な場で、ボクが香煙の人間ではない、と宣言することが大切なんだ」

「会見よりもパレードでいうのが説得力が増すってイミフだし」

「会見は時間も日にちも操作できる。もしかしたら二年前に録画したものかもしれないだろ? だがパレードは違う」

「そういうものなの?」

「そういうものなんだ、香煙家は。操作できない状況での宣言が大切なんだ」


 朱の言葉に納得できるような、できないような。

 だけれど、家族ごとのローカルルールのようなので、納得するしかないのだろう。


「それ以上に、パレードが早まればテロを早めなければならない。準備が間に合わなければ万々歳っていうのもあるんだろうな!」

「じゃ、そのせいで警備とか、御煙たちがてんやわんやなんじゃない……?」

「そうだろうな。きっと御煙番の大半が、今、香煙家を暗殺したいと思っているだろうな!」


 豪快に笑う朱に、僕も思わず笑ってしまう。


 だけど……。


 これって、朱の存在が、無かったことになるってことじゃ……。


「……朱、急ごう」

「どうした。もう少し体力が回復してからで良いだろ!」

「だめだよ。だって、君が……」

「ボクがどうかしたか?」

「消えちゃうじゃないか……」

「百年の歴史で見れば、ボクが当主候補から降りることなど、たいしたことのない出来事だ!」


 朱は髪の毛をなでなおし、二個目に目をつけていたメロンパンにかじりついた。

 すぐにクリームに届かなかったのか、勢いをつけて三口頬張り、目的のクリームにたどりついたのか、にんまりと微笑んでいる。


「だ、だめだよ、朱。だって、朱はこんなすごい鎧、造ったじゃない……だめだよ……だめだよっ!」

「自殺志願の隼に言われたくはない!」

「僕は……僕には、求める未来はないから……けどさ、朱は違うじゃん」

「隼、ボクは君の未来が美しいのを知っているぞ」


 あまりに真っ直ぐな瞳に、僕は目を合わせられない。


「おうおう、死ぬのはいつでもできるんだから、ちょっとはカッコつけて死ねよ」


 キリ爺の言葉が、僕にはありがたい。


「……だよね、キリ爺。僕もそう思ってた」



 ──その言葉にすがらないと、前に進めない自分が嫌になる。

 だけど、誰かに背中を押されないと、僕の足は進めそうになかったから。

お読みいただき、ありがとうございます。


これからガンガンがんばる隼を、どうぞ、応援よろしくお願いしますっ!

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