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十三話 〜助ける方法を求めて

 委員長は助けに来た朱に向かって、小刀を突きだした。

 朱は小さな体を転がしよけている。

 けれど、両手から突き出される小刀は、ためらいなく朱を刺そうとしている。


「委員長……!」

「よそ見している暇なんてあるの?」


 なにかが首にまとわりつく。

 手長足長の腕だ……!

 ナイフの切っ先が僕の喉をつらぬこうと進むけれど、僕だって、まだここを死場所に選んだわけじゃない。

 右腕を伸ばし、切っ先が届かないように抵抗する。

 ……でも、力の差が大きい……!


「いつまで、もつかしらね? できれば、香煙朱が死んだのを見てから死んでほしいのょ」


 じりじりと絞められる感触がいやらしい。

 必死に目を開いて、僕は委員長に念を送る。



『騙されてるよ、委員長! だってコイツは、暗殺者なんだよ!』



 ……なんて、危機的な心の声が届けば苦労してない。


「委員長、ボクを殺しても何も解決しない!」

「香煙朱って、テロ犯じゃない。私が殺せば、勲章ものだわっ」

「それは冤罪だ!」

「そんなの、犯罪者の常套句じゃないっ」


 小刀を薙いだけれど、それを朱はギリギリでかわしている。

 うまく小刀をいなし、足払いにもっていこうとするが、朱の体が小さ過ぎるせいで、全然決まらない。

 スカスカさせる足を見るたびに、イライラする……。

 ……だめだ。

 僕も集中しないと……!


「ちょっと、ちゃんと刺さって」

「いやだ! ボクは痛いことは大嫌いっだ!」

「私、あなたを殺せば、蒸気街で暮らせるって約束してもらったの……だから、死んでよ! 十分恩恵受けてるでしょ?」


 朱の脇腹目がけて、肘が伸ばされた真っ直ぐな腕。

 それを朱が体全体で受け止めた。


「委員長、ボクを殺しても、蒸気街で暮らすことはできない! あんな暗殺者の言葉を信じるのか!」

「うるさいっ! 1%でも叶うなら、私はそこにすがるっ」


 朱を払うように両腕を振り回すが、朱はびくともしない。


「離しなさいよ!」

「ボクは、離さないっ」

「もうこんなとこ、嫌なのよっ! 優等生ぶったって、結局は迷路街の人間……区別って差別を受ける。本当に大嫌いっ!」

「蒸気街は違うっ! 人の価値を認め、価値を見る街だ!」

「それはありえない。住んでるからわからないだけ!」


 かすみ始めた目を、ぐっと開く。

 もう少しだ。


「まぁ、ちょっとなにか齧ってる程度じゃ、アタシには勝てない。もう喋る力もない?」

「よく喋るな……」

「おしゃべりな暗殺者って、明るくていいでしょ?」



「明るく死になさいょ」



 手長足長の顔が、ぐっと、僕に寄った。

 黒い目玉が見える。


 この瞬間を待っていた───!!


「───咲けっ!」


 僕の声に呼応して、手長足長の関節に差し込まれた蒸気石が咲こうとする。


「……アタシの目を通して、蒸気石を咲かせるつもり? そんなこと、できるわけ……」

「咲き散れ……!」


 喉が潰され、声が割れる。同時に、蒸気石が咲き始めた。

 いや、咲き乱れていく。


「あら、すごいわょ、隼くん。目から呼応させるなんて……! これができるのは、シラカバ以外で見たことない。でも、こんなものでアタシを───」


 花が砕けた瞬間、手長足長の膝が崩れた。

 予想通り、力が入らないんだろう。

 すぐに腰も落ち、床へと這いつくばってしまう。

 気力で立ち上がろうとも、手すら上がらない。

 僕はそこを無理やりぬけだし、見下ろした。


「……はぁ。なんとかなった」

「……毒? アビリティ……?」


 兜の奥の目が、細く細く狭まっていく。


「違うよ。僕のアビリティは、……って、もう寝ちゃった?」


 軋む体を無理やり立たせ、手長足長の頭を蹴ってみる。

 いびきを一つあげて、ゴロンと仰向けになった。

 この隙にと、兜を外し、自分にかぶせてみる。

 意外としっくりおさまった兜に満足しながら振り返った先は、朱のところ。


「朱、大丈夫?」


 なんとか腕を押さえ込んだ朱がいるが、口に巻いたハンカチのおかげで、かろうじて起きている。

 襲いかかっていた委員長は、すでに夢の中だ。


「……体がグラグラする……この昏睡のアビリティは強力すぎる…ぞ……」

「一日一回しか使えないのが……って、ちょ、朱、寝ないでよ!」


 そういっても、本人以外で起きることは、ほぼ不可能。

 なので、一度朱のことも放っておくことに。


 僕は痛い体を引きずりながら、仕上げとして手長足長の肩、股関節、膝、足首の関節を外してから、適当なコードで縛りあげておいた。

 次に委員長だけど、人質にされている風に見せかけ直しておくことにした。


「椅子に座り直して……手も縛っておいた方がいいかな……」


 なので後ろで手をまとめておこうとおもうけれど、手首に傷なんてつけたら、お父さんが大暴れするかもしれない。

 手長足長の上着をやぶり、それでしばっておこう。


「よし。……ほら、朱、起きて! 起きてー!」

「んあっ?」

「これから自治警備部呼ぶから、隠れるよ」

「……なら、放って逃げれば……」

「委員長がちゃんと保護されるか見てからじゃないと、僕、安心できないから」


 いくら地獄のような場所でも、治安を守る組織はある。

 基本は二〇階層域を根城にしているが、四〇階層でも通報すれば駆けつけてくれる。

 今回は世界手配犯の手長足長だ。

 嘘の情報だとしても、超特急で来るはず。


 となりの建物の脇道に隠れ、見守ること一〇分。

 こんなに蒸気石をふかしながらやってきた自治警備は初めて見たかも。

 しかも、総動員じゃないだろうか………。


「すんごい人数……」

「ふわぁ……来たようだな……」


 朱はまだまだ眠気が取れないようで、顎が外れそうな欠伸を何度もしている。

 見ているうちに、委員長がすぐに外へと連れ出されている。

 ただ彼女の眠りはまだ覚めておらず、ていねいに毛布が巻かれてあり、救急車両で移動がはじまる。


 次に出てきたのは、手長足長だ。

 言葉どおりに、ぐるぐる巻きにされた挙句、引きずられている。

 だけれど、僕のアビリティである”昏睡”の威力は相当なようだ。

 まだ、寝てる。


「本気で使ったの初めてだったんだけど……気をつけなきゃな、これ」

「殺さずの力は素晴らしい……ふぁぁ〜」

「欠伸しすぎ」

「ん」


 朱は僕がかぶっている兜をコンコンとノックした。


「コイツも、隼を気に入ったようだ」


 にっこり満面で笑うと、朱は再び意識を閉じて眠りについてしまう。


「寝たいのは僕の方だよ……」


 全身が痛い。

 痛いけど、ここに止まるわけにはいかない───


「……とはいえ、キリ爺に泣きついてみるしかないか……」


 僕は上階層へ向かうため、朱を背負うと、蒸気靴のかかとを鳴らした。


「……もう少し、頑張ろう……」


 こんもりと温かな蒸気を残し、僕はビルの隙間を昇っていく。


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