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十二話 〜勝利を求めて

 僕の動きに、手長足長が合わせてくる。

 それもネチネチと嫌な間合いで。

 絶対性格、めっちゃ悪い……!


「教えてよ、捨てられたって気づいたのはいつ? いつかなぁ?」


 唐突に腕が伸びた。

 それも、手首と肘の間。部分部分で伸びてくる。

 どんなギミック、体に仕込んでるんだ?

 間合いがわからない。

 それに、まだ技を隠してるはず……。

 これじゃ、迂闊に近づけないじゃないか……!


「近づけられないって? 肉弾戦しかできない隼ちゃんが悪いのょ」


 僕の心が見透かされている。

 確かにそうだ。


 もっと、遠くからでも攻撃できる何かがあれば……。

 距離を、少しでも稼がないと……!


「……いっ!」

「疲れてきたのぉ? もっと避けないと、体がズタズタになるわょ」


 手長足長の指先に、長い(やいば)の爪が伸びる。

 よく磨かれているそれは、手長足長の色を吸って、黒く染まる。

 おかげで、動きが見えづらい……。


「……くそっ」

「まだやる気あるの? ならアタシ、楽しんじゃお」


 不規則な動きで、刃を避けきれない。

 あちこちに蒸気石を詰めて、奇抜な動きを作り出してるんだ。


「……そこっ」


 軌道を読んで、掴み、手長足長の鎧にある蒸気口を壊そうとするけれど、それがうまくいってれば、僕はすでに圧勝だ。


「意外と勘がいいのね。いいところ狙ってくるじゃないのょ!」


 腕が振り回される。

 ぶるぶると上下に揺れる腕をすべてかわすのは不可能だ。


「いっ!」


 ……かすっただけなのに、めっちゃ痛い!

 腹部に熱が走る。

 絶対、これ、なんかの毒もありそう……!

 でも、見ない。体は見ない。

 ……見なーいっ!


「隼、腹が斬れてる!」


「左腕も切れたぞ!」


 もぐらたたきみたいに、叩きたい、朱の頭……。

 ポコポコ頭をだして、声をかけてくる。


「朱、言わないで」


 再び頭が出てきた。


「あちこち血が出ているぞ!」

「だから、言わないでって!」


 聞きたくない情報をばかり。

 ……あー、イライラする……!


「ちょっと、アタシの話、聞いてた?」


 回し蹴りというより、鞭だ。

 手首よりも細くなった足がぐんと僕の頬をかすっていく。


「答える理由は、ないっ」


 僕だってやられてるばかりじゃない。

 回し蹴りからの、連続の足蹴り。


 顔面を狙うのに、まっすぐ足をのばすけれど、蒸気すらかすらない。

 もう、思ったより息が上がってる………。

 肺が一気に苦しくなる。


「アタシは隼ちゃんが苦しむ姿が見たいのょ?」


 逆サイドから振り回された足が、僕の首をめがけて伸びてくる。

 側転しながら避け、バック転で距離をとる。


「……捨てられたのに、いつなんか、必要ない……!」


 肩が揺れる。

 息が、整わない。

 しっかり整えないと……。


「あんまし堪えてないわね。スレた子だわ」

「別に」

「……じゃあさ、父親を殺すって言ったら?」


 長い腕が床になにかを転がした。

 僕の足元に滑ってきたのはスマホだ。

 その画面には映像が流れている。


 どこかで見た顔だ……。


「……オヤジ……?」


 僕は反射的にスマホを踏みつけ、壊していた。


「……ちょ! これからいいところなのに!」

「あ、スマホ、ごめんなさい……」

「なんなのよ、あんた。お父さんが死んでもいいわけ?」


 ぷんぷんと駄々をこねる子どものように、長い手足を振り回す手長足長だけど、僕は動画の続きはどうでもよかった。


「ねぇ、死んでたら、どうするのょ?」


 黒い笑いが見える。

 口元なんて隠れているのに、耳まで裂けた薄い唇が笑っているのが僕には見える───


「……で、死んだ?」


 自分でも驚くぐらい、情のない声だった。

 その返答に、手長足長は小さく舌打ちをする。


「つまんない子」


 大きく肩を竦ませた。



 ───チャンス!



 僕は踏み込んだ。

 蒸気が僕の体を囲み、目隠しにする。


「──隼!」


 朱の声に一旦動きを止めたとき、目を斬るように刃がよぎっていく。

 横に蒸気が斬れ、ふわりとなびいた。

 大きく引いたナイフは、僕の腹に向かって突き出されてくる。


 ギリギリまで引き寄せ、避ける───!


 翻した体を蒸気靴でさらに回転させ、腕を伸ばし、前かがみになった手長足長の背中にかかと落としを一発!


「……入った!」


 床にがつんと音が響く。

 僕は追撃はしない。


 ───来る!


 手長足長は起き上が流瞬間、体を回転させながら、四方八方に攻撃しだした。


「まずいっ」


 僕は近くのソファーの裏に身をかがめるけど、目の前にシャンデリアが落ち、そのガラスが弾ける。

 さらに壁がえぐられ、テーブルがひっくり返り、ソファは穴だらけだ。


 僕は床を這いつくばって難を逃れたけれど、手長足長にとって、このフロア自体、攻撃範囲の広さなんだ───


 胃が冷える。

 逃げ場が全くないじゃないか……。

 なるだけ戦わずに委員長を救出しようと考えていたのに。


 委員長を振り返ると、まだ気を失っっている。

 受付カウンターの奥だからか、ギリギリ当たらなかったようだ。

 いや、当たらないように手長足長が調整したのかもしれない。

 人質を傷つければ、価値が極端に下がる。


 ……ん? 委員長の頬が、ちょっと赤い……?


 破片が飛んで、頬が切れてた……。

 まずい。お父さんに左腕をもがてしまう……!


 手長足長の攻撃の勢いが弱くなり始めた。

 回転回数と蒸気石の噴出による攻撃だ。

 補充しなければ、勢いは続かない……はず。たぶん。


 攻撃が止まったと同時に僕は飛びだした。

 体が縮んだばかりの手長足長は動きが鈍い。

 懐へ飛び込み、羽交い締めにする───!


「そんなの、お見通しょ」


 両腕で体を包む混むと、針を逆立てた。


「フグかよっ」

「甘く見ないでょ。アタシのアビリティは速度なんだから。もっともっと速くしちゃうわょ」


 細かな蒸気が術者の体にまとって強化していくタイプか───


 マシンガンのように突き出される棘が厄介だ。

 腕に、太もも、脇腹、首……切り傷がない部位はないんじゃないかってぐらいの傷だ。

 おかげで白シャツは真っ赤。

 見たくなくても目に入ってくる。

 息も上がりっぱなし。


「……もっと、肺を鍛えとくんだった……」

「今更後悔? そんなの遅いょ。……でももう飽きたから、隼ちゃん、死のうか」


 壁のように僕に迫る。

 拳一個分も空きがないほどだ。

 すぐに右腕で顎を狙う。


「遅いわょ……いぅ!」



 僕の()()()()()右腕が手長足長の顎に届いた……!


 

 僕の右腕は『自由』。

 だから、一本増やしたのだ。

 強度はそのまま。質量は変わらないので、肘から先を二つに分けて、拳にする。


 拳だってただの拳じゃない。

 トゲトゲつきのいやらしい感じの鉄の玉にしてみた。

 攻撃力としては、かなりいいみたい。

 ただ今回不意打ちが入っただけだ。


「アタシの顔を殴るなんてやるじゃないのょ!!」


 回し蹴りと同時に二本のナイフが僕に向けられる。

 蹴りを腕で受け、ナイフを避ける。

 空中で回転しながらの宙返りは、久しぶりだ。

 見極めて体を舞わし、足を跳ね上げ、拳を放つ。

 鎧の腕もだいぶ馴染んできた。

 思うところに、《《手が届き始めてる》》。 


「いい動きじゃないのょ。あんた本当に高校生? 暗殺の才能あるわょ?」

「僕はソッチに興味ない、で、すっ!」


 蒸気で跳ね上がり、壁を蹴る。

 天井についた足は、さらに蒸気を噴出させる。

 落下の勢いが目指す先は、手長足長の首──!


 ……届く瞬間、朱が叫んだ。


「やめろ、委員長っ!」 


 つい視線が飛んでしまった。

 長い腕が僕の脇腹を殴りつけた。

 壁に当たった体は、ひどい音と一緒に歪んだ。

 肋が数本イってる。息が痛い。


 だけど……!


 助けようとしていた委員長が、朱に襲いかかっている。

 小刀を振り回す委員長だけど、もしかして、操られている……?

 ……いや、目は《《普通》》だ。


「そいつと契約したの! 香煙朱を殺したら、蒸気街で生活できるって!」


 ……嘘だろ。

 委員長も『罠』になってるなんて……───

お読みいただき、ありがとうございます。

応援いただけると、大変励みになります!


まさかの委員長が……

これからどうなる?!

次話をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 委員長は、まぁ成り上がりたいもんなぁ 真面目ちゃんが欲望に負けるのが好き [気になる点] 隼くんの右腕が増えるってことは明らかに元の大きさとか質量超えての変形ができるってことですかね? 制…
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