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人生絶望してる方がいい事あるかも! ~あの香煙家に拾われた僕、最強『御煙番』になるために、めっちゃ強い暗殺者と戦います~  作者: 木村色吹 @yolu


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十話 〜委員長を求めて・再び

 腕時計がぷるりと震える。

 タイマーが切れたからだ。


「……よし、朱、行こう……めっちゃ怖いけど……やっぱダメかな……でもな、委員長は奪還しないと……でも」

「うるさーいっ! あんな美味しい中華の娘さんを傷つける輩は許さんぞぉー! おーっ!」


 朱は慣れたのか、僕の右腕にしがみつく。僕はそれに合わせ、肘を曲げ、彼女を抱え上げてから、かかとに力を込めた。


「弾けろ」


 僕の言葉に反応して蒸気石から鈴の音がする。

 むわりとした柔らかな温かさが、自分の言霊で生み出した蒸気とわからせてくれる。


『人肌の蒸気は、良い蒸気』


 母の声が胸に響く。

 良い蒸気───


「母さん、もうちょっと待っててね……」


 蒸気の噴出する音がしゅるしゅるとあたりに散って僕の声は口の中に止まった。

 それでもきっと母には届いたはずだ。


『やれるだけ、やってみないさい』


 いつもの母の声が聞こえる。

 こんな声を思い出すのも久しぶりだ───



 中央にぽっかりと穴があく。

 環状線の道路も少なくなるこの辺りは、何も考えないで落ちていくわけにはいかない。

 穴は空いていても、そこには電線から蒸気管まで蜘蛛の巣のように広がっている。工業域が近づくほど蒸気管が増えていくし、管自体も高温になっており、そばをすぎるだけで肌がちりちりする。


「朱、しっかりつかまっててね」


 僕は右腕を朱に絡まらせた。

 腰回りから背中まで、鎧がぐっと伸びる。

 僕はくるりと頭を下げた。

 ぐんぐんと速度を上げながら落ちていく。

 奈落の底に落ちていく。


「……おおおおおお!!!! 隼、ぶつかるーっ!!!」


 管と電線がぶん、ぶんと音が鳴りながら過ぎていく。

 黒ずんだ世界だ。

 濁った空気に、建物すらも黒ずんで見える。たまに人の切れ端もぶら下がっていて、治安の度合いがわかる。


 朱を抱えて、蒸気靴を再噴出させた。

 前回転をかけて速度を落とし、横回転で体勢を整える。

 着地点には僕の左足を軸に回転した右足が蒸気で円を描いた。


「……目、が、まわっ……」

「朱、着いたよ」

「……歩け、ない……」


 朱は改めてハンカチを鼻にかけなおしながら、足を絡ませている。

 両肩をつかんで立たせてみるけど、本当に歩けないようだ。


「目、つぶってたらよかったのに」

「早く、そう言えっ!」


 ヨレヨレの朱をおていくわけにもいかないので、手を引いて進んでいく。

 僕はあたりに視線をまわした。

 指定された廃ビルはこのビルで間違いない。

 ビルの入り口に【東一〇九九】と大きく看板が出ている。

 だけど廃墟ビルのはずなのに、なかは煌々と明かりが灯っている。外観がボロボロなだけに、奇妙にも見える。

 三階建てのビルの窓は全て割られ、もちろん、ビルのガラス戸も破られている。

 錆びついた観音開きのドアに手をかけると、抵抗もなく開いた。


 すぐにロビーが広がるけれど、意外と天井が高い。

 昔は繁盛していたビルのよう。

 大理石の床に、正面には受付嬢が座るカウンターもある。

 商談もこのロビーでできるようにと皮張りの椅子も置いてあったようだが、すべて切り刻まれて見る影もない。


 カウンターの横には、細く長い廊下が見える。

 オフィスへと続く廊下だが、奥が黒く染まってよく見えない。

 ときおり、バチっと鳴る火花が、白く廊下を照らす。



 カラカラカラカラ………



 音に驚き目を凝らすと、何かを押す音がする。

 すり足の音と、何個かの車輪の、カラカラという音。

 うっすらと暗いなかでも陰影が見える。


 ただ、なにか、まではわからない。


 かつん、と鳴るたびに、乗せられた何かが、がくんと揺れ、一度落ちそうになったのか、丁寧に元に戻された。



 瞬間、火花が、その姿を見せてくれた。



 ───悪魔だ。



 僕の足が、一気に弱る。

 さっきまで思っていた気持ちなんて、跡形もなく消えさってしまった。


 全身に鳥肌がたってるし、呼吸だって浅い……。

 ダメだ……マズい……。



 ……殺される──!



 思わず足が後ろに下がったとき、悪魔の姿がしっかりと現れた。

 黒い仮面をかぶっているので、どんな表情かはわからないけれど、怒っているのは口調でわかる。


「ちょっと早過ぎぃ……ふつーここまでくるの二時間以上かかるんじゃないぃ……?」


 手長足長は、軽く頭を振った。

 どうも馴染みが悪いようだ。それもそうだろう。兜だけが赤いことから、あれは間違いなく朱が造った鎧だ。

 手長足長には合っていない……?


 その彼がカラカラと押していたのは、オフィス用の椅子。

 委員長はその椅子にぐったりともたれかかっている。

 血色はそれほど悪くなく、見る限りでは怪我もなさそうだ。


「……委員長!」

「大丈夫ょ。殺してないょ。まだね……」


 手長足長は長い指で委員長の頬をなでる。

 刃が当たらないようにそっと。

 そしてそれは、僕らへの牽制でもある。


「味見しようと思ってたのょ。痛くしないように気絶までさせたのにぃ……残念だわ!」


 手長足長は丁寧に委員長をカウンターの中に置くと、再び僕と対峙した。

 向かい合っただけで、圧倒的な絶望が僕の体にまとわりついてはなれない。


 逃げたい。

 胃が痛い。


 ……殺される───!!


お読みいただき、ありがとうございます!

ひとこと感想いただけると、大変はげみになります

よろしくお願いいたします


とうとう手長足長と対決です

隼はどう戦うのか、乞うご期待!

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