第弍章 2「過激派組織カーネーション」
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8月下旬 北海道 洞爺湖町 とあるお店
「いやぁ……うちのエージェント、あっさりでしたね……」
薄暗い照明が照らすバーのカウンター席で鼠色のスーツを着た髭男が呟いた。
マスターはその話を聞き、鼻で笑う。
「笑いごとじゃあ、ないんすよねぇ~……」
しょっぱい苦笑いで呟いたマスターだが、特に状況が変わるわけでもない。それを悟った彼は、仕方なく反省点を提示する。
「まあ、あいつは油断するような人間ですからね、そもそもの人選ミスでしょう……」
「上の奴らって頭悪いのかな?」
「はは、まさか……」
髭男はマスターの指摘に対して、
「うちらはあそこで勝とうなんざ思ってないんですよ、むしろここから計画が始まります。あんな細身男の死は、正味、問題にもならないことですよ」
「へ、どうせ僕たちは捨て駒と……?」
少し本気のトーンのマスターはワイン瓶を静かにたたきつけて問う。
「まさか、そういう意味ではないですよ」
「じゃあ、先の発言は全く違うんじゃないですかね?」
「まあ、明確に違うとは言い切れませんよ」
「明確に違う、ねぇ」
またしても 重苦しい雰囲気が漂い始めるが、髭男は冷静に言った。
「あそこの現場には、ヤツがいたからなんだよ」
「ヤツ……?」
マスターはワイン瓶を棚にしまいながら言った。
「ヤツって、誰なんだよ?」
そこでワイングラスを手に持った髭男は静かに呟いた。
「ああ、B3の最強暗殺者だよ。確か……No,007、通称『漆黒』だっけな……。この世界では有名だろ? 知らないのか?」
「馬鹿にすんなよ、知ってるよ……にしても、まさか『漆黒』がでてくるなんてな……」
「ほんとだよ、リーダーもこいつが出るなんて思ってなかったかもな……」
そのワインを口に含み、空気と絡めて、鼻から空気を吐き出す。
「まあでもさ、終わり良ければいいんだよ、失敗なんてしてないし、あくまでこんなことは過程さ」
「ほぉ~、まあそっちの話はそっちに任せるからね、とやかくは言わないよ。とにかく、俺たちの夢のためにな」
そうだな、と一言告げた髭男は席を立ちあがって、置いてあったハットを頭にかぶせて、トイレの看板の方向へ歩き出した。
看板下の小さなのボタンを押すと何かが作動し、ゴオォォ、と音を立てて壁が動き出す。
「いやぁ、これは何度見ても興奮するねぇ~」
大きな木の板が左右にゆっくりと開き、真っ暗な階段が姿を見せた。
にこっと微笑んだ髭男はその階段を下りて行った。
まるでダンジョン、その言葉がとてもとても似合う薄暗い階段を下りていく。
二分ほど下ると薄暗く、大理石でできている大きなルームが姿を見せた。
「いやあ、ここもオシャレなとこだな」
独り言を呟いた髭男はその大きなルームの真ん中を直進し、工場現場にあるような開放感あふれたエレベーターに乗りこんで。
開と閉のボタンに、上と下のボタン。
その並んだボタンを開と下の順で押して、エレベーターが動き出す。
ガタガタと激しさ溢れる音を鳴らしながら約5分、深さにして約50Mの長さを下りながら髭男は鼻歌を交え、スマホを開く。
設定からマナーモードを指定、そしてすぐに電源を切る。どうやら位置情報を気にしているらしい。
ガタンっとエレベーターの底を地面にぶつけ、開のボタンを押し、髭男はまたしても薄暗い洞窟のような道を歩き出す。
曲がりくねった道を歩いて行くと、『関係者以外立入禁止』の看板が書いてある扉が見え、髭男はその扉のセキュリティを解除すると、ギギギ! と扉が自動で開きだした。
完全に開くと、そこには。
連続投稿です!
しばらくこうしてみるかもしれません!