新たなる試練
「ワフッ!!」
嬉しそうに尻尾を振りながら太郎が速見の前を先行する。久々に速見と行動を共にする事が出来て気持ちが高ぶっているのだろう。
それを微笑ましげに見て、それから速見は自分の後ろを振り返る。
すぐ後ろからついて歩いていたマルクとシャルロッテと目が合ってどうしたのとばかりに首をかしげられた。
「いや、こうして三人で行動するのも久しぶりだと思ってな」
速見の言葉に嬉しそうにシャルロッテが頷いた。
「ええそうね、何だか昔に戻ったみたいでくすぐったいわ」
ふわりと笑うシャルロッテにマルクが続いた。
「だけど気を抜いちゃいけないぜ。何せこれから向かう先はあの ”禁じられた森” だからな」
禁じられた森。
それは南の端にある捨てられた孤島に存在する禁域。その森を住処にしている魔物の常識外れの強さから進入禁止の令が敷かれる程の危険地帯である。
世界の崩壊を防ぐためクレアが集めた人材は知者である魔王パイシスと発足人のクレア・マグノリアを司令塔としてそれぞれ違う任を受けて動いている。
今回三人が請け負った任務は ”禁じられた森” の最奥にて秘宝 ”死のアミュレット” を回収する事だ。
速見は出発前にクレアが説明していた話を思い出す。
『要するに世界崩壊の危機ってのは ”魔神”の復活を意味するんだ。魔神ってのはね、当時の勇者に打ち倒された後にその存在を三つに分かたれて封印されたんだ。三つというのはそれぞれ ”心臓” ”肉体” ”魂”だね。心臓を封印したのは ”命の宝球” 勇者に持ってかれたのがコレだね。そしてお前にこれから回収してもらう ”死のアミュレット” が魔神の肉体を封印している秘宝だ』
魔神の復活は三つの秘宝を用いなければ行われない。つまり先回りして一つでも回収してしまえばとりあえずの危機は回避できるという寸法だ。
(しかし ”命の宝球”を隠していた北の遺跡も難易度はそうとう高かった・・・今回も一筋縄ではいかなそうだな)
速見が難しい顔をしたのを察したのか、前を歩いていた筈の太郎がいつの間にか足下に寄ってきて自らの主人を励ますように頭をすり寄せてきた。
「・・・ありがとな太郎」
その頭をわしゃわしゃと撫でて感謝の意を示す速見。太郎は気持ちよさそうに目を細めて「クゥーン」と小さく鳴くのだった。
最初は今回の任務に太郎を連れて行く気は無かった。しかしそんな速見にクレアが助言をしたのだ。
『ああ下僕。今回はこの子も連れて行くといいよ。きっと役に立つと思うからさ』
太郎を危険にさらすのは気が進まなかったが、自らの主人が適当な助言をするような魔族では無いと知っていた速見はその助言を受け入れた。
(まあ何にせよ、今回のリーダーは俺だからな・・・誰も傷つけさせはしないさ)
そっと背中の無銘を撫でる。
「さて、着いたようだな」
目の前に広がる巨大な樹木の海。
ここが禁じられた森、人を拒絶する魔物達の禁域だ。
「お前達準備はいいか?」
速見の言葉にマルクとシャルロッテは元気よく頷く。速見の足下でじゃれついていた太郎も顔をキリリと引き締めて「ワフッ!」と気合いを入れていた。
冒険が、始まる。




