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ショウタイム

 勇者だった男の背から飛び出したのは汚れ無き乙女を思わせる一対の純白の翼。それは三つ物にある種の畏怖を感じさせるほど神々しく、同時に背徳的なまでの美しさを伴うこの世の理の外にある存在。


 そっとその眼が開かれる。


 開かれた眼からあふれ出すのは目映い光。


 赤青白。それは一瞬として同じ色を見せず、同時に無機質な冷たさを持って相対する魔王ジェミニの姿を照らし出した。


「何と何と、これは良いスポットライトですネ。それでは魔王ジェミニによるショウをご覧に入れまショウ」


 ジェミニは大げさな動作で一礼をする。


 次の瞬間その姿がフッとかき消えた。


 キョロキョロと周囲を見回す男。しかしジェミニの姿はどこにも見当たらない。


「イッツショウタイム!」


 突如足下から吹き上がる炎の柱。


 ソレは勇者だった男を丸ごと飲み込んで、それでもまだ足りぬとばかりに天高く炎が昇っていく。


「はっはぁ! 美しイ! 炎は良イ! まだまだ行くデスよ!」


 狂ったようにゲラゲラと笑いながら魔王ジェミニは両手にそれぞれ炎の塊を生み出すと、ソレを燃えさかる炎の柱に向かって放り投げた。


 地面に着弾した二つの炎の塊はそれぞれそこから新たな炎の柱が吹き上がり、辺り一面を灼熱の地獄へと変えていく。


 燃えさかる炎の柱をぴょこぴょことその場で跳ねながら観察するジェミニ。やがて炎の地獄の中から何事も無かったかのように一人の男が歩いてきた。


 身を包んでいた服は全て燃えて無くなり、しかし肌は少し焦げついているモノの重傷を負っている訳では無さそうだった。


 済ました顔の男が気に入らなかったのか、ジェミニは無言で掌から炎を生み出すと男に向かって無造作に放り投げる。


 再び生まれる灼熱の火柱。


 しかし男の歩みは止まらず、またダメージを負っている様子も見られなかった。


「・・・もうその攻撃は効かない。この身体が学習したからね」


 そう呟いた全裸の男は、唯一手に持っていた装備品である一振りの聖剣を鞘から抜き、残った鞘を投げ捨てた。


「煌めけ ”暁の剣”」


 真名が解放された聖剣の刀身が輝き出す。


 しかしその光は従来の深い紅の色では無く、まるで男の眼から漏れる光のように七色に輝くのだった。


「次は俺の番だ」


 無表情でそう呟いた男が片手で持った聖剣の切っ先をジェミニに向ける。輝く七色の刀身はまるでこの世のモノとは思えぬ美しさを持っており、ここが戦場だということも忘れてジェミニはあまりの美しさに息を呑む。


 次の瞬間、男が予備動作を全く見せずに踏み込んできた。そのままでも十分に早いその踏み込みを、背中に生えた純白の翼が羽ばたく事で推進力を産みさらに加速させる。


 残影を残すほどのスピードで距離を詰めてきた男の一撃は魔王ジェミニの身体をまるで熱したナイフでバターを切り裂くようにやすやすと両断し、その命を絶った。


 ドッと力なく地面に崩れ落ちた魔法の死体を一瞥すると、興味を失ったように歩き出す男の顔には何の表情も浮かんでいないのだ。


「おやおやもう帰るのデスか? せっかくだから第二幕も見ていって下さイ」


 突如無人の荒野に響き渡る軽快なジェミニの声。


 男が振り返ると、目の前には無傷で佇む魔王の姿があった。


「ではお待たせ致しました第二幕の開幕でございマス」


 ジェミニがぱちりと指を鳴らすと、勇者だった男の身体が一瞬で凍り付く。それはまるで手品を見ているかのようにあっという間の出来事で、理不尽なまでに早く避けようの無い攻撃。まさに魔王という強者にのみ許された技であった。


 普通の相手ならばこれで終わりだっただろう。


 しかし今回の相手はどこを取っても尋常では無い。凍り付いた身体を圧倒的な膂力で動かして全身を覆った氷を砕く。


 氷の牢獄から脱した男は首を一つならすと口を開いた。


「なるほど、この攻撃も覚えた」




 

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