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謝罪

 マルクに抱きついてきたのはかつてのチームメイト、幼なじみのシャルロッテだった。会えて嬉しいと泣くシャルロッテ。しかし急な展開に脳が追いつかないマルクは思考がショートしてその場に棒立ちするのだった。


「シャル、嬉しいのはわかるがそろそろ離してやれよ。マルクが固まってんぞ?」


 懐かしい声にマルクはハッとして顔を上げる。目の前にいたのは強面の中年男、白髪の交じった灰色の髪を片手でかき分けてマルクにニッコリと優しく笑いかける。


 その人物を見た瞬間、マルクの中で何かが崩壊するのを感じた。唇はわなわなと小刻みに震え、目の奥がじんわりと熱くなる。


「は・・・ハヤミ・・・・・・」


 震える声で懐かしい名を呼ぶと、速見はしっかりと頷いた。


 気を利かせたシャルロッテがそっと抱きついていた手をほどき、マルクから静かに離れる。拘束が解かれたマルクは生まれたての子鹿のようによたよたと速見の元へ歩み寄ると、その存在を確かめるようにギュッと身体を抱きしめる。


 懐かしい香りがした。


 そう、孤児だった自分を拾い育ててくれた義父の香り・・・。


「・・・・・・ごめんなさい」


 様々な感情が溢れてくる中、最初に口から出た言葉は謝罪であった。


 ずっと悔いていた。


 夢のためとはいえ、パーティから速見を追放したあの日の事を。


 ずっと謝りたかった。


 夢を追うためにそんな手段しかとれなかった自分たちの未熟さを・・・。


「・・・ったくシャルもお前も開口一番はソレなのか? この馬鹿ガキ共が・・・子供が大人に遠慮してんじゃねえよ。謝罪なんて10年早いんだマルク。お前達は何も振り返らずに真っ直ぐ夢を追えば良い。俺に対して罪悪感なんて感じる必要はねえんだよ」


 柔らかな愛に溢れた言葉。マルクは何も言わずただ速見をギュッと抱きしめた。









ー数日前ー




「なあご主人様よ、要するに勇者の居場所が分かるまでは動きようがないんだろ? だったらしばらくの間休日をもらいてえんだけど」


 速見の言葉にクレアはキョトンと首をかしげた。


「休日? 別に構わないけど・・・めずらしいわね、お前がそんな事言い出すなんて。何かあったの?」

「まあな。前の遺跡探索でたまたま昔の知り合いってか・・・まあ前のパーティメンバーに逢ったんだよ。んで、今度休みでもとってまた昔の仲間で集まろうって話になってな」


 その言葉を聞いてクレアはしばらく考え込むような姿勢をとり、ふと顔を上げて口を開いた。


「遺跡で会ったのってシャルロッテちゃんとマルクくんのどっち?」


「・・・・・・なんでアンタが二人の名前知ってんだよ」


 当たり前のように彼女の口から出てきた二人の名前に速見はげんなりとしながら尋ねる。その様子を見てクレアはケラケラと笑った。


「お前を蘇らせた時に記憶をちょっと覗いたのよ。まあ、マルクくんとは個人的に知らない仲でも無いしね」


 速見は頭をがりがりと掻いて大きく息を吐き出した。


 今更クレア・マグノリアという魔族に何を言っても無駄だろう。それこそ手下として働いてきた今なら彼女が何を知っていたとしても驚くには値しない。


「・・・まあいいだろう。遺跡で会ったのはシャルの方だよ・・・詳しくは知らないが勇者のパーティの一員になってたみたいだ」


「へぇー、勇者のパーティにね。それで? お休みを貰ったお前とシャルロッテちゃんはマルクくんに会いに行くわけなの?」


「まあ、そんなとこだな」


 速見の言葉にクレアは再び何かを考えると、唐突にニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。


「ねえ、下僕。休みを取るのはいいけど一つ条件があるわ」


「・・・・・・何だ条件とやらは」


 しぶしぶと行った様子で尋ねる速見に、クレアは楽しくて仕方が無いといった様子でその条件を口にした。


「マルクくんはアタシが迎えに行くわ」




 

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