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誕生

 光が収まったその瞬間、遺跡を守護していた無数のストーンゴーレム、そのすべてが一斉に活動を停止した。


 まるで宝が人の手に渡った事で遺跡を守護する役目から解き放たれたように。


 そしてソレはそこに立っていた。


 見た目は勇者そのもの。しかし命の宝球を手にする前に負っていた傷は全て無くなっており、陶器のようになめらかになった肌からは微光が放たれているようなのだ。


 速見はゴクリと生唾を飲み込んで事の顛末を見守る。何かとんでもない事が起きているような、そんな予感がしていた。


 勇者が閉じていた目をゆっくりと開く。瞼によって遮断されていた光りが強烈なその輝きが瞳から放たれる。


 赤青白・・・ソレは一瞬として同じ色をしていない。無数の色に瞬くその輝きはまさに命の宝球の放っていたその光りと同種のモノだった。


「・・・身体に取り込んだってのか、命の宝球を・・・」


 速見の呟きで、初めてそこに誰かいると気がついたとばかりに顔を向ける勇者。その顔には表情と呼べるモノなど一切浮かんでいなく、人形の方がまだ人間味あると言いたくなるような不気味な顔をしていた。


 勇者は速見とフェアラートを順番に見ると、興味を無くしたように視線を逸らし、そして天を仰ぎ見ると両手を大きく横に広げた。


 ずるりと湿った音を立てて勇者の背中から一対の翼が生える。


 純白なソレはまるで汚れを知らぬ乙女のような清さを感じさせ、同時に非現実的なまでの神々しさで見るモノを拒絶していた。


 バサリと翼が宙を打ち、勇者の身体がふらりと舞い上がる。宙で二三度確かめるように翼をはためかせると上を向き、そのまま天井をぶち破って勇者は遺跡からさっていく。


 彼が飛び去った後にはハラハラと抜けた天使の羽が宙に舞うのであった。










「おやお帰り二人とも。それで? 命の宝球は回収できたかい?」


 遺跡から帰ってきた二人にねぎらいの言葉をかけるクレア。そんな彼女の言葉に速見はじゃれてくる太郎の頭を撫でながらすまなそうな顔で首を横に振った。


「すまねえなご主人様。今回のお使いは先手を取られちまった」


「誠に申し訳ありません我が主。全てこのフェアラートの失態でございます」


 そんな二人の言葉に目を丸くしたクレア。


「・・・へえ、ソイツは驚いた。お前達二人で失敗するとは思わなかったな。・・・・・・先手を取られたと言ったね? 詳しく話を聞こうか」


 速見は頷くと、遺跡で起こった出来事を事細かにクレアに報告した。もちろんシャルロッテと出会った事やそこで約束した事なども包み隠さずにだ。


「ふむふむなるほどね・・・勇者が先に命の宝球を手にして・・・それで融合しちゃったって事でいいのかな?」


 速見は無言で頷く。


 その様子を見て、クレアは疲れたような顔をして深いため息をついた。


「・・・そりゃあやっかいな事になったね。できればこっちで宝球を回収しておきたかったんだけど」


 浮かない表情のクレアに速見は問いかける。


「なあ、そもそも命の宝球って何なんだ? アンタのお使いだからヤバいモンだってのは予想できるが・・・なんで勇者もアレを狙っていた?」


「・・・そうだね。ここまで来たら隠していてもしょうがないか」


 クレアは何かを決心したような顔をして速見に向き直った。


「命の宝球・・・アレはね、封印されている魔神の心臓なのさ」


「魔神・・・だと?」


 魔神・・・クレアの事では無く、長きに渡って封印されているという本物の魔神の話だろう。


「そう、魔神の心臓だ。アタシは長らくアレの隠し場所を探していてね。どうやら北の遺跡に護られているらしいとわかったのは最近のことなんだ。ぶっちゃけ宝球が無くても計画を進められることは進められるんだけど・・・よりにもよって勇者に取られたってのは不味い・・・非常に不味い自体なんだよコレは」


「・・・クレア、そろそろ教えてくれてもいいだろ? アンタの計画ってのは何なんだ? 宝球を取り逃したのは俺の失態だ、出来れば挽回の機会をもらいてえ。だがアンタの計画を知らないままじゃまた何かヘマをするかもしれないぜ?」


「・・・・・・そうだね、確かにその通り」


 クレアの真剣なまなざしが速見、そしてフェアラートと順に捕らえていく。すうっと息を吸い込み、ゆっくり吐き出した。


 今までこの計画について話した事があるのは魔王ジェミニ一人だけ、絶対に成功させたい計画というモノは知っている人物は必要最低限でなくてはならない・・・だがこの二人には話すべきだろう。クレアはそう判断したのだ。


「アタシの計画は・・・今封印されている魔神を滅ぼして、その力を自分のモノにすることだ」






  

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