人類最強
騎士の国フスティシア王国。
歴史あるこの国は周辺国家最強と呼ばれる王家直属の騎士団が守護する世界屈指の強国である。
王国の歴史ある騎士団は皆誇り高く屈強で、その高潔な精神で信ずるもはや信仰とすら言えるレベルの騎士道精神は他国の追従を許さない。
そんなフスティシア王国にあるとき一人の異端児が生まれた。
王国の大貴族の一角ビルドゥ家。その跡取りとして生まれた男こそ希代の大天才アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥその人である。
陽光をキラキラと反射する柔らかな黄金のごとき金髪。
憂いを秘めたサファイアのような碧眼と麗しき乙女に見まがう程の美貌は見る者を虜にする。歌を歌えばセイレーンが裸足で逃げ出し、学問は王国の知者達が舌を巻く。
まさに完璧。彼はおよそ人が神に望むモノ全てを持って生まれたような男だが、その本当の力は先に述べた才とは別の分野にあったのだ。
その力は彼が幼少の頃、既に才覚を現していた。
ビルドゥ家は騎士の家系である。
故にその当主は例外なく王家に仕える騎士となり、その命を祖国に捧げてきた。
跡継ぎであるアルフレートも幼き頃より練習用の木剣を手に取り、騎士となる為の剣術の稽古に励むこととなるのだが・・・幼きアルフレートは周囲の人間の度肝を抜く才能を示す事となる。
初めて木剣を手にした幼きアルフレート。
しかし彼はまるで最初からソレが何をする道具でどうやって扱うのかを知っていたかのようにピタリと美しい構えを見せた。
剣術指南の教える技は、その方法を聞くでも無く一度技を見るだけで覚える事が出来、彼が12才の誕生日を迎える頃には模擬戦にて王国屈指の実力者である指南役の騎士を倒してしまったのだ。
跡取りの驚愕すべき才能に歓喜したビルドゥ家当主は当時最強の騎士と呼ばれていた王国騎士団長に頼み込み、アルフレートを彼の元へ弟子入りさせる。
そして数年の月日が流れ、アルフレートの力は誰にも超えられぬ最強の武として成熟した。弟子の力が己を超えた事を悟った騎士団長は引退を決意、その座をアルフレートに譲る。
史上最年少の若さで騎士団長へと就任したアルフレート。
その後の彼の活躍は凄まじく、いつしか彼は ”史上最強の男”と呼ばれることとなった。
◇
遠く離れた地へと遠征をしていた最強の騎士アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥが一年ぶりにフスティシア王国へと帰ってきた。
その美貌と確かな実力で民からの人気も高いアルフレート。凱旋パレードには国中の人間が参加し、史上最強の騎士の雄志を一目見ようと人が押しかけていた。
馬上から爽やかに手を振る騎士の姿に国民は歓喜する。その様子を速見はフスティシア王国から数十キロほど離れた丘から千里眼を発動して見学していた。
「おうおう、噂の騎士様ってのはすげえ人気だねえ」
そう呟く速見の居座る場所から凱旋パレードの通りは距離が離れているだけでなく遮蔽物も多い為、どんなに高性能な望遠鏡を用いても様子を見ることを不可能である。
しかし速見の右目に移植された魔王サジタリウスの千里眼。その能力の前には距離や遮蔽物など何の問題にもならない。
この目からは地球上のどこにいようと逃れる事はできないのだ。
今回速見が請け負った仕事はクレアの計画の邪魔になり得る人物の偵察・・・即ち史上最強と称される騎士、アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥの実力を確かめに来たのだ。
(スカした面をしてやがる・・・史上最強だか知らないが、人間ってのは脆い生き物でな、どんなに強かろうが頭をぶち抜かれたら死ぬしかねえんだよ)
速見はそっと ”無銘”を構える。
目標は遠く、その間には強固な壁も存在する。
しかしそれがどうしたというのだろうか?
この武器は ”無銘”
作られて名付けられる事も無く忘れられ・・・故にその在り方を定義することなど誰にも出来ない。
この武器に限界など無い。
あるとしたらそれは出来る筈無いと考えてしまう使用者の心の在り方が無銘の性能にブレーキをかけているのだ。
魔王サジタリウスの千里眼と、無銘の射程に限界など無い。しかしそれでも照準を合わせて引き金を引くのは使用者である速見の技量だ。
深く深呼吸をする。
一つ、二つ。
酸素を肺に染みこませ、呼吸のリズムを身体に馴染ませる。
一つ、二つ。
極限まで集中する。最早周囲の雑音は消え失せた。視界もグンと狭まり、自分とターゲットの遠く離れた両者の距離が間近に感じられる。
(・・・・・・今!!)
稲妻の素早さで引き金を引き絞る。
乾いた音と供に放たれた光の弾が真っ直ぐに伸びていき、遮蔽物を貫通してなお軌道を変えずにターゲットへと迫りゆく。
光の弾がターゲットまで数メートルまで迫ったそのとき、騎士アルフレートはサッと振り返ると迫り来る弾を正面に見据え、腰に差した剣を抜刀した。
流れるような美しい動きで剣が閃き、襲い来る弾を両断する。
そして見えるはずの無い速見の視界に向かって顔を向けると、その端正な顔をニヤリと傲慢に歪めるのであった。
「・・・・・・驚いたな。こりゃあ正面からぶつかっても勝ち目は無さそうだ」
仮に今の相手が勇者ショウだった場合。数十キロ先から音も無く迫り来る弾に気づかずに頭を打ち抜かれて絶命しただろう。
速見は自分に有利な状況で全力で殺しにかかったが相手は悠々とそれを打ち破った。
つまり単純に考えてもその実力は速見の遙か上にある。
「・・・今は引こう。この状況でアイツを倒せるビジョンが浮かばないしな」
無銘を肩に担ぎ直し、速見は立ち上がった。
最後にちらりと王国の方角を一瞥してポーチから出したアイテムを使用する。クレアの転移魔法が込められたクリスタルが砕け散り、魔法が発動する。そして速見はその場から姿を消したのだった。
◇




