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深淵の知

『また来客か、今日は忙しい日だな』


 椅子に深く腰掛けたエルダーリッチは振り返る事も無く背後にいる来訪者に語りかける。


「初めまして、アタシはクレア・マグノリア。アナタを迎えに来たわ魔王パイシス」


 来訪者・・・魔神クレア・マグノリアはこのダンジョンの主であるエルダーリッチ・・・魔王パイシスに向かって無邪気な笑みを向けた。


『フハハッ! 私が魔王であると知った上で来たというのか。なかなかに面白い女だ。・・・・・・それで? 魔王である私に用事があるお前は何者なのだ?』


 パイシスは椅子ごと振り返り、クレアと正面から相対した。虚ろな眼窩に点る青白い炎がゆらりと揺れて、クレアを見定めるように睨み付けた。


「ふふふ、怖い顔。本当はアナタの死体を回収しに来たのだけれども、まさかアンデットになっているとは思わなかったわ。・・・そうね、先の質問に答えるとアタシは魔神よ。アナタと手を組みに来たの」


 クレアの言葉を聞いて一瞬の静寂の後、パイシスは大きく笑い出す。


『フフフハハハハハッ!! 魔神だと? お前がか。そうかそうかどういう故があるのかは知らんがお前は厚顔にも魔神を名乗って魔王を配下に置いているのだな?』


「あらあらその様子だと本物の魔神を知っているようね」


『ああ知っているとも! あのお方が封印される前に私は魔王として君臨していたからな。当然あのお方との面識もある・・・傲岸不遜な魔族よ、お前は何故あのお方の名を語る? 見たところかなりの実力者のようだが、お前は何が目的で動いているのだ? 答えによっては協力するかもしれんぞ』


 パイシスの言葉に大きくため息をついたクレアは自分が魔神と呼ばれるようになった経緯を説明した。


『ほうほうなるほどな、それで魔神と呼ばれるようになったお前は何がしたいんだ?』


「詳しくは仲間になってくれないと言えないけど・・・まあ当面の目的は勇者を捕らえる事かしらね」


『ふむ、まあ仲間でも無いものにベラベラと目的をしゃべる筈も無いか』


 パイシスはそう言って立ち上がると不意に骨の掌をクレアに向けた。


『”ボーン・プリズン”』


 詠唱に呼応して地面から生えてきた無数の骨がクレアの周囲を取り囲み、骨で作られた鳥籠のような囲いを形成してクレアを拘束する。


「あら、交渉決裂かしら?」


 あくまで冷静なクレアをパイシスは鼻で笑い飛ばした。


『ふん、お前のような怪しい奴に協力する義理は無い。そもそもお前は自分の事を元魔王だとほざいたな?』


「ええ、それが何か?」


『愚かな小娘よ。クレア・マグノリア・・・お前は魔王などでは無い。そも、魔王とは単純に魔族の長を指す言葉では無く世界に定められた楔なのだ。あのお方の元に仕える魔王の数は十二。


”魔王エアリーズ”(おひつじ座)


”魔王トーレス”(おうし座)


”魔王ジェミニ”(ふたご座)


”魔王キャンサー”(かに座)


”魔王レオ”(しし座)


”魔王ヴァルゴ”(おとめ座)


”魔王リブラ” (てんびん座)


”魔王スコーピオ”(さそり座)


”魔王サジタリウス”(いて座)


”魔王カプリコーン”(やぎ座)


”魔王アクエリアス”(みずがめ座)


そしてこの私 ”魔王パイシス”(うお座)、それぞれが一つの星座を司っている。クレアなどという魔王は存在しないのだよ』


 魔王パイシスの言葉にクレアは表情を無くした。


 その顔は感情の一切がそげ落ちて、まるで人形のような不気味さを放っている。


「・・・魔王パイシス。アナタのその知識は危険だな」


『ふん、私をそこいらの魔王と同じにするなよ? 確かに魔王の中には自身に課せられた使命など知らずにその命を終えるモノも多いが、私は数少ない魔神様に直接仕えた事のある魔王だ。その知識は世界の深淵にまで及ぶ』


「・・・・・・本当に残念だよパイシス。わざわざここまでやってきたというのに、貴重な魔王という戦力を自分で潰さないといけないなんてね」


 そう言ってクレアは骨の牢獄に手をかけると、素手でその牢獄を破壊した。


 美しかったクレアの肉体は戦闘に備えて変化を始める。


 白く透けるようだったなめらかな肌には亀裂が入り、筋肉は膨張し、骨格は獣のソレへとメキメキと音を立てて変化をする。


 ずるりと湿った音を立てて背中の肉が裂け、中からぬらりと光るコウモリのソレに似た漆黒の翼が姿を現した。


『・・・・・・凄まじいなクレア・マグノリア。一体お前はどれだけの魔族を喰らったんだ?』


 パイシスの言葉にクレアはその唇を歪に曲げて笑う。


 戦いが


 始まる。



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