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三千年

「・・・っ!! 者ども、この男を殺せ!!」


 ヴァルゴは控えていた魔物達に合図を出す。


 魔物達は怒濤の勢いでタケルに襲いかかるが魔王ヴァルゴの顔に余裕は一切なかった。


 思い出す


 思い出す。


 三千年前のあの敗北を。


 どこからともなく現れた一人の男に、自分の無双の軍勢が蹂躙されていった恐怖を・・・。


「・・・違う。妾はあの頃とは違う!!」


 そうだ、あの時は敵が一人だと油断していた。


 それだけの事・・・。


 今のヴァルゴに油断は無い。最初から最大戦力を持ってあの男を叩きつぶすまで。


 地面に右手を当て、詠唱を始めるヴァルゴ。それに呼応するように足下に五つの魔方陣が展開され、五体のナーガラージャが召還された。


「まだ、まだだ!!」


 ヴァルゴは自身の右手を左手の爪で切り裂き血を流す。その流れ出た血を地面に擦りつけ、幾何学的な文様の魔方陣を描いた。


 召還の詠唱と供に血の魔方陣から現れたのは首が九つに分かれた巨大な蛇の魔物。魔王ヴァルゴの隠し球である魔獣”ヒュドラ”の召還である。


「殺せヒュドラ!!」


 召還されたヒュドラは主の命じるがままに突き進み、その九つの頭で一斉に威嚇の声を上げた。


「おや、頭が九つある蛇ねぇ。なんか八岐大蛇を連想するけどっと」


 タケルはそう言いながら襲い来るヒュドラの攻撃を華麗にかわし、勢いよく飛び上がって握りしめた剣でヒュドラの首を一つ切断した。


「まあ、首がたくさんある蛇を ”草薙の剣” で殺すってもの何ともおもしろい話だね。スサノオよろしく大蛇退治といくかい」


 そこからのタケルの戦闘は凄まじいの一言だった。


 襲い来る無数の魔物を捌きつつ、的確にヒュドラの首を一つ一つ落としてゆく。その動きはまるで流れる水のようになめらかに、そして美しい舞を思わせる。


 気がつくとその場で動いているモノは、無数の屍を踏みつけて立っている無傷のタケルと冷や汗を額に浮かべた魔王ヴァルゴの二名だけとなった。


「あり・・・えん。三千年前に妾が敗北したのは慢心のためだ! 今回は妾の持つ全ての兵力をつぎ込んだのだぞ!? 何故それが人間ごときに敗れるのだ!?」


 ヴァルゴの叫びに、タケルはやれやれといった風に首を振ってゆっくりと彼女との距離を詰めていく。


「く・・・クソぉおおお!!」


 ヴァルゴが魔眼を発動するも、既に目の前にはタケルの姿は無く。いつの間にか背後から振り下ろされた ”草薙の剣” の一振りがあっけなく魔王ヴァルゴの首を切断した。


「簡単な話さ魔王ヴァルゴ。アンタが知るよしは無いだろうけど、オイラは人間じゃあ無いのさ」


 そう言ってヴァルゴの死体に背を向けたタケルは石像にされた二人の元へ歩み寄る。


 本来、石化の呪いは魔眼の保持者が死んだところで解除されるものでは無いのだが・・・タケルはそれを解除する方法を持っていたのだ。


「ふう、本当はオイラがあんまり干渉するのは良くないと思うけどねえ。今回は特別だよ?」


 そしてタケルは手にした草薙の剣を振り上げて・・・・・・。










「目が覚めたかい勇者君?」


 目覚めたショウが最初に聞いたのは飄々と笑いながらリンゴをかじっているタケルの声だった。


「・・・此処は?」


「病院さ。安心しなよ、お仲間はみんな生きてるからさ」


 そう言いながらリンゴを食べ終えたタケルは開いた窓から外へ向けてリンゴの芯を放り投げる。


 行儀の悪い行為ではあるが、それを咎めるより先にショウにはタケルに聞いて置かなくてはならない事があったのだ。


「魔王はどうなったんだ?」


「死んだよ。君が倒したんだ。流石だね勇者君」


「・・・俺が?」


 最後の記憶を思い出す。


 槍に貫かれた腹部と走る激痛。


 駆けつけたカテリーナが石にされ、絶望の中ふらふらと彼女に手を伸ばす・・・。


「・・・駄目だ思い出せない。本当に俺が倒したのか?」


「ああ、凄かったぜ。なんかピンチに陥った勇者君がいきなりぴかっと光ったかと思うと聖剣から凄いビームが出て魔王を倒したんだ」


 適当な説明である。 


 だが、ショウはなんとなく理解した。


 恐らくは窮地に陥った自分に神が力を貸してくれたのだろう。そう、魔王カプリコーンの時と同じように・・・。


 結局のところ、今のショウの実力では神の加護を得なくては魔王に勝てないのだろう。


 このままで良いはずが無い。


 ショウの目的は魔神の討伐。


 魔王にも勝てないようでは魔神なんて倒せる筈が無いのだ。


「・・・タケル」


「ん? 何だい?」


「俺、もっと強くなるよ」


 それは勇者としての覚悟だった。








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