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自惚れ

「カテリーナ! タケルの治療を頼む!」


 急いで仲間の三人と合流したショウは、重傷のタケルを下ろしてカテリーナに治療を要求する。


 タケルの顔は青白く、その表情は苦痛に歪んでいた。


「!? 急いで治療を施します! シャルロッテさん、補助をお願いできますか?」


 カテリーナの言葉にシャルロッテは頷くと、二人でタケルの治療に取りかかった。


 その様子を見たショウは張っていた気が抜けたのだろうか、その場で座り込んで荒い息を整えていた。


 先の戦闘で負傷した場所がズキズキと痛む。心臓を貫かれたタケルほどでは無いが、ショウも十分ボロボロであった。


「・・・何があったのですか勇者様。見たところアナタも怪我をしているようだ。城内で強力な魔物でも出現したのでしょうか」


 心配そうに尋ねるアンネに、ショウは静かに首を横に振った。


「・・・違うよ魔物じゃあ無い・・・・・・魔物じゃないんだ・・・」


 ショウは歯をギリリと噛みしめた。


 思い浮かぶはライフル銃を持った同郷の戦士の姿。


 手も足も出なかった。その事実に打ちのめされているのだ。


 魔王カプリコーンを・・・あの強敵を打破したショウは自惚れていた。あんなに強い魔王を倒せたのだから自分は魔神を倒し、世界を救うことができるのだと・・・。


 彼はショウのそんな天狗になった鼻っ柱をへし折ってしまった。


 直接的な戦闘能力で負けているとは思わない。


 現に彼と相対した時、魔王カプリコーンと戦っていた時のような絶望的な戦力差は感じられなかった。


 動きも無駄が無いスマートな動きではあったが、その全てを眼で追う事ができたのだ。


 では何故手も足も出なかったのか。


 それは彼が状況を巧みに操ってショウに全力を出させないようにしていた。その戦術の緻密さにショウは負けたのだ。


 そしてあの精密な遠距離射撃の恐ろしさ。


 もし今度、彼と戦うときに遠距離に徹されたら対処ができるかわからない。


 険しい顔をしたショウに声をかけたのは意外な人物だった。


「そう険しい顔しなさんなって勇者君。オイラは大丈夫だからさ、傷が治ったらすぐにでも城を攻略しようや」


 カテリーナの治療を受けていたタケルが青白い顔でニカッと笑うとショウに語りかけたのだ。


「タケル!? 駄目だよ無理しちゃ! その傷じゃ戦闘は無理だ。今は一旦引いて体勢を立て直そう」


 ショウの言葉にタケルは反論する。


「いんや、それじゃあ遅すぎるね。オイラに怪我させたあのオッサン・・・今は引いているけど時間を置いたらまた戻ってくるかもしれない。魔王とあのオッサンを同時に相手するってのは無理な話さ。それなら多少戦力が落ちていようとすぐ魔王を倒しに行った方が勝算が高い」


 タケルの言い分は納得できるものだった。確かに先ほどの男と魔王を同時に相手するのは不可能に近い。


「オッサン? 勇者様、その人物について詳しく聞かせてくれませんか」


 真剣な表情で問いかけるアンネに、ショウは頷くと自分たちを襲撃した謎の男についてみんなに語って聞かせた。


「・・・なるほど、勇者様と同郷の男ですか。・・・・・・話を聞く限りではかなりの実力者のようですね」


 アンネは納得したように頷くとカテリーナに問いかける。


「カテリーナ。タケルの治療はあとどれくらいかかりそうですか?」


「はい、本来ならこんな致命傷は1日2日で直るようなものでは無いのですが・・・何故かタケルさんの傷は治りが早くて、あと数時間もあればとりあえずの治療は終えられそうです」


 不思議そうにそう言うカテリーナにタケルは飄々とした態度で笑いかける。


「詳しくは言えないけど、オイラは他の人よりちいとばかし身体が頑丈なのさ。じゃあ治療が終わったらすぐに攻め込むとして・・・今のうちに作戦を伝えておくぜ」


 タケルの言葉に一同は真剣な表情で頷くのだった。












「やっほーヴァルゴちゃん。おひさー」


 気の抜けるような声と供に魔神クレア・マグノリアが転移をしてきた。


 王座に座っていた魔王ヴァルゴは驚いたように立ち上がると、そくざに跪いて忠誠の意を示す。


「これは魔神様。本日はいかがなされました?」


「んーとね。ヴァルゴちゃんはこの城の近くに勇者が来てる事気づいてた?」


 クレアの問いにヴァルゴは頷く。


「ええ、勇者とは知りませんでしたが何者かがこの近隣でこちらの様子を伺っているのは気がついております。しかし速見殿が対処するとの事でしたので放置しておりますが?」


 ヴァルゴの答えにクレアは深くため息をつく。


「それなんだけどね。うちの下僕、たぶんしばらく使い物にならないから勇者の件はヴァルゴちゃんにお願いしたいんだけど・・・いいかな?」


「お任せ下さい。そういう事でしたらこの魔王ヴァルゴ、見事勇者の首を取って参りましょう」


「頼もしいね。それじゃあ手下を勇者の元へ向かわせるのかい?」


 クレアの言葉にヴァルゴは首を横に振った。


「いえ、それで逃げられては面倒。ここは気づいていないふりをして城へおびき寄せようと考えています」


「なるほどなるほど・・・まあやり方はヴァルゴちゃんに任せるよ。でも相手はあの魔王カプリコーンを倒した男だからね。もし自信が無いなら逃げても構わないよ。こちらとしても優秀な魔王を失うのは痛手だからね」


「ははっ、お戯れを。強敵だからとて逃げるようでは魔王の名が廃ります」


 何気ない様子でそう言ったヴァルゴ。


 クレアはその言葉を聞いて一瞬顔を曇らせるが、すぐに何でも無いとばかりに笑顔を見せた。


「そう。じゃあ頑張ってねヴァルゴちゃん」


 そして転移魔法でその場からいなくなるクレア。


 ヴァルゴは玉座に座り直し、まだ来ぬ勇者を思い静かな闘志を漲らせるのであった。






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