日本人
にらみ合うショウと速見。
ショウは速見が手にしているライフル銃を見て内心驚きを隠せないでいた。
(あれは銃? この世界で銃なんて見たことが無い・・・この人、何者?)
先に動いたのは速見。
素早く引き金を引き、構えたライフル銃・・・”無銘”から青白く光る弾が放たれる。身体の正中線を狙って放たれたソレを、ショウは超人的な反射で回避すると担いだタケルを地面に寝かせ、自身の聖剣を抜き構えた。
両者の距離はおよそ5メートル。ショウの脚力なら一瞬で詰められる距離だ。
「いいのか? それで」
極限の緊張状態の中、速見は何気ない様子でショウに問いかけた。
「・・・? 何を言っている?」
訳がわからない。
「・・・・・・いいんだな? 怪我している仲間を地面に置いても」
そう言った速見の瞳は暗く沈んでいた。
無造作に引き金が引かれる。
放たれた銃弾が向かう先は・・・・・・地面に横たわったタケルの方向。
「!? うぉおお!!」
咄嗟に弾丸の射線上に自分の身体を割り込ませるショウ。光の弾はショウの右肩を貫いて軌道が変わり、タケルの身体からは逸れて飛んでいった。
苦痛に顔を歪めるショウ。
その隙を逃すまいと速見は一気に距離を詰め、ショウの腹部に強烈な前蹴りを放つ。硬い革靴のつま先が腹部の肉にめり込み、肺の空気が一気に吐き出される。
しかし神の加護を受けた強力な身体能力でその攻撃を耐えたショウは聖剣を握りしめ、反撃の一撃を繰り出した。
当たれば必殺のその一撃を、しかし速見は予想していたかのように紙一重で回避すると ”無銘” を持ち替え、銃口を握りしめると持ち手の部分でショウの頭を強かに殴りつけた。
ぐわんぐわんと視界が揺れる。
平衡感覚は失われ、ショウは既に自身が立っているのか倒れているのか判別できない状況だった。
故に速見の追撃を回避できる筈も無く。その無防備な顔面に銃の持ち手による一撃が全力で打ち込まれた。
無様に鼻血を吹いて転倒するショウに馬乗りになった速見は ”無銘”を構え直し、銃口を額に向けてから静かに口を開いた。
「”チェックメイトだ勇者くん。一つ質問をするから正直に答えるんだな”」
ふらふらと意識を失いかけていたショウだが、速見の言葉を聞いて驚愕を顔に浮かべた。あまりの驚きに意識が一気に覚醒する。
「・・・・・・日本語だって?」
「”お察しの通り俺は日本人だ。20年前次元の亀裂に飲み込まれ、気がつくとこの世界にいた・・・まあお前と違って事故で世界を超えたみたいだから神の加護なんて大層なモンは持ってねえし最初は言葉もまるで通じなかった有様さ”」
自嘲気味にそう言った速見の顔をまじまじと見つめるショウ。
右目は何故か深紅に染まっているが、その顔つきは確かに日本人のそれに違いなかった。
「”・・・なぜアナタは魔王の側についている?”」
意味がわからない。
この世界の人間では無いとはいえ、同じ人間を敵に回して魔王側に与する必要など無い筈だ。
「”それについては説明する気は無い。お前は敗者だから俺の質問にだけ答えろ。満足する答えが得られたら解放してやってもいい”」
どうやらこの男はどうしてもショウに聞きたいことがあるらしい。
「”・・・わかった。何が聞きたい?”」
速見はごくりとツバを飲み込んで長年気になっていたとある事を目の前の勇者に尋ねる。
「”我が祖国は・・・大日本帝国は戦争に勝ったのか?”」
「”・・・・・・え?”」
速見のその質問は、ショウに取ってあまりにも予想外なものだった。
「・・・・・・そんな馬鹿な」
速見はあまりのショックにふらふらとその場を立ち去る。
放置されたショウは何ともいえない気持ちでその沈んだ後ろ姿を見送った。
速見が質問をした後、二人は何かがかみ合っていないと気がつきお互いの身の上を話し合った。
そして分かったのだ。
二人の間にはおよそ100年以上の時間のズレが存在しているという事実が。
速見は日露戦争でロシアに勝利した日本がその後の対戦で敗れたことなど、ショウからある程度の知識は得たモノの、100年の時が経過しているという事実がショック過ぎてその内容はほとんど頭に入ってこなかった。
そしてグチャグチャに乱れた思考を整理するためにこの場を後にしたのだ。
「・・・こうしている場合じゃない。早くみんなと合流しないと」
ショウも痛む頭を押さえながら倒れているタケルを担ぎ直し、他の三人と合流するためにその場を後にした。
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