継承 2
青白く輝く矢に左目を貫かれ、しかし覚悟していたような痛みは襲ってこなかった。
不審に思う速見。
次の瞬間、突きささった矢はサラサラと音を立てて崩れ落ちてゆく。
「……なんだコレは?」
ダメージは無い……少なくとも、現状貫かれた左目は問題なく機能している。
その刹那、ぐらりと視界が揺れた。
地震か?
とっさに浮かんだその疑問も、次の瞬間には消し飛んだ。
「……っ!?ぁっっ…………!!??」
声にならない絶叫。速見は地面を転げ回る。
視界は真っ白になり、突如脳内に許容量を遙かに超えた無限の情報が流れ込んでくる。
オーバーヒートした脳は悲鳴を上げ、灼熱に包まれる。眼からはドクドクと血が溢れ、胃の中身は全て吐き出された。
外部から流れ込んでくる情報の影響か、思考が加速されているようで、まるで一秒が永遠に思えるほどだった。
今まで感じた事の無いほどの痛み。
しかし、それは自分の内部で発生しているため、どれだけ叫ぼうが、地面を転げようが逃れる事ができない。
この痛みから逃れることが出来るのなら、何でもするだろう。
百戦錬磨の速見ですら、そう感じるほどの激しい痛み。ダラダラと涎を垂らし、溺れる人が助けを求めるように宙に手を伸ばす。
激痛は、訪れた時と同じように唐突に終わりを迎えた。
ゼイゼイと息を荒げながら、速見はゴロリと仰向けに寝転んだ。あの激しい痛みが嘘だったかのように、今の脳内は静寂に包まれている。
ゆっくりと左目の瞼を開く。
矢で貫かれた速見の左目には、妖しげな青色の光が灯っていたのだった。




