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継承




「・・・・・・つまりお前は、本物の魔王サジタリウスを殺し、成り代わったのか?」


 速見の問いに、彼女はニコリと微笑んだ。


「そう、あの時から私は本来の名を消し、魔王サジタリウスとなった。世界の破滅を回避するために、魔王という存在を利用したんだ」


 世界の破滅。


 すなわち魔神の復活の事だろう。


「でも駄目だったよ。私が何をやっても、魔神は復活してしまう……どうやら、この世界の滅亡は、定められた運命みたいだ」


 そう言った彼女は、憂いを秘めた瞳で、遙か遠くにいる速見を見つめた。


「私では駄目なんだ。このシナリオを覆すには、この世界の人間では無く、そして千里眼に適応する事のできる君の助けがいる」


 速見は、戸惑いが隠せなかった。


 本来、彼はここに魔王サジタリウスを打倒して、ノアを救出するために来ているのだ。まさか、その魔王から世界を救うために手を貸して欲しいと言われるなんて、思ってもいなかった。


「……仮に、アンタの言っていたことが真実だとして……俺に何ができる。見ての通り、ただの人間……では今は無いが、それでも世界を救う力なんて持っていない。千里眼に適合したと言っても、俺はただ狙撃に自身があるだけの小物だぜ?」


 速見は直接魔神の姿を見た。


 完全体では無かったが、その強大すぎる力の片鱗を感じ取る事は出来る。


 ただの一撃で、次元すら引き裂いてしまうほどの力。


 例え魔王サジタリウスの言葉が真実で、全てを見通す事の出来る能力を得たとしても、あの魔神に勝てるヴィジョンなんて、これっぽっちも浮かばなかった。


「……詳しく説明したいけど、どうやらそろそろ時間が来たみたいだ。悪いね、説明不足で。世界の運命を君一人に託して、本当に心苦しいけど、私にできるのはあとこれくらいしか無いんだ」


 そう言って、魔王サジタリウスは弓を構えた。


 美しい所作だった。


 きっと、何千何万と弓を射て来たのだろう。


 彼女の弓を構える姿は一部の隙も無く、神々しさすら感じられる。


 何も持っていなかった彼女の右手には、いつの間にか青白く輝く一本の矢が握られていた。 番えた矢を大きく引く。


 キリキリと音を立てて軋む弦。彼女は悲しげに笑った。


「私を信じて……受け取ってくれるかい?」


 放たれた矢は、大きな放物線を描いて虚空へと飲み込まれていく。


 速見の千里眼は、無意識のうちに矢を追跡し、やがてその矢が自分を貫くであろう事を悟った。


 当惑する。


 千里眼を持つ速見にとって、こんなわかりやすい一射を避ける事など容易で……だからこそ、魔王サジタリウスの意図がわからずにいた。


 そして何より、矢を放ったときの彼女には、一切攻撃の意図が感じ取れなかった。


 速見は葛藤する。


 果たしてこの攻撃を避けるべきなのか否か……。


 永遠にも思える葛藤の末(実際にはほんの数秒ではあったが)、速見は体の力を抜いた。


 何故その選択をしたのかは自分でもわからない。だが、そうするべきだと直感したのだ。


 やがて、遠方から飛来した青白く輝く一本の矢が、速見の左目を貫いたのだった。




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