魔王サジタリウス 4
「不思議そうな顔をしているね。君は当たり前のように千里眼に適合したから、それが普通だと思ったのだろう? しかしそれほど簡単に適合できるような代物なら、世の中にはもっと ”千里眼” の名前が知られている筈だとは考えなかったのかい?」
世に知られる有名な魔眼には、その能力を求めたモノ達による非人道的な血塗られた歴史がつきものだった。
保持者の目をえぐり出し、別の人物に適合させるための人体実験の歴史だ。
そして不運な事に、そんな非人道的な実験にはわずかながら成功例が存在したのだ。
保持者から離れた魔眼を発動させる事ができる……そんな成功例は、世の力を求めるモノ達にとっては福音で、魔眼の保持者たちにとっては地獄の始まりであった。
魔眼狩り。
より強力な魔眼の保持者を見つけ出し、その瞳を抉り取る。
抉り取られた魔眼は闇市にて高値で取引された。
「”千里眼” は魔眼狩りの対象外だった。保持者の絶対数が少ないのはもちろんのこと、どれだけ研究を重ねても保持者以外と千里眼が適合することはなかったんだ」
「・・・・・・では何故、俺とだけ適合する?」
他者と適合しない千里眼が、速見にだけ適合する意味がわからない。
そんな速見の問いに、サジタリウスは静かに微笑む。
「千里眼の保持者とは、精霊により定められた世界を観測する存在。精霊に認められていない存在に、”世界を識る” 力は扱えない」
何か勘が良いに更けるかのようにしばらく口を閉ざすサジタリウス。やがて彼女は、静かに口を開いた。
「少し、昔話をしようか・・・・・・そう、これはまだ私が魔王サジタリウスではなかった時代の話だ」
そして彼女は語り出した。
千里眼を受け着いた世界の観測者が、”魔王サジタリウス”となった、その歴史を。
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