精霊術の秘奥 2
森の民の精霊術は、口伝でのみ伝えられてきた一族の秘伝。故に他の種族には其の実態を知るものは折らず、他のポピュラーな魔術とは違い、対応も難しい。
しかし、対する二人の少女は臆するようすもなく微笑みながら、それぞれの武器を構えた。
最初に動いたのは執事服の少女。
双剣を下段に構え、低い姿勢で距離を詰めてくる。スピードはそれなりに早いようだが、人類最強のウィリアムや、そのウィリアムが一刀のもとに殺した魔族のイプシロンに比べてもやや見劣りする程度だった。
武器を見るに、二人とも近接戦闘がメインだと推測できるが、このスピードからはあまり凄みというものを感じられない。
「ドリアードよ! 我ら森の子に其の力を貸したまえ」
ミルの言葉に従うように、ユラユラと揺れていた植物の蔓が意志をもっているかのように動き出した。
迫り来る執事服の少女に向かって伸びる無数の蔓。しかし少女は余裕の表情で双剣を握り直すと、まるで舞うような華麗な動きでやってきた蔓を全て切り刻んだ。
(華麗だが動きに無駄が多い・・・・・・しかし洗練されている。いったいこの動きにはどんな意図が?)
わからない。
しかし、少女の舞うような動きには、やけに眼が引きつけられる。
(いや!? まて、もう一人の少女はどこだ!?)
背後からわずかな物音。
ミルは本能のままに横っ飛びに回避を試みた。
一瞬遅れて、先程までミルの首があった場所を大鎌の刃が通り過ぎる。
「あら、仕留めたと思ったのに避けられたわデルタ」
「そのようだねラムダ」
「この御方は少しは楽しめそうねデルタ」
「あぁ、楽しめそうだよ・・・、でも時間の問題だろうけどね?」
二人の少女が穏やかな顔で会話をする中、ミルは早くなる鼓動を押さえながら額に浮かんだ冷や汗を拭った。
(一瞬でも遅かったら死んでいた・・・・・・何故私は大鎌の少女の気配を感じ取れなかった?)
そういえば執事服の少女の剣舞を見たとき、いやに引きつけられるような感覚を覚えた・・・・・・あれは幻術の類いなのだろうか?
「さて、もう一度行くよ・・・今度は逃さない」
そして執事服の少女が再び剣を構える。
先程と同じ対応をしては、また敵の術中にはまるだけだろう。そう考えたミルは何かを決意したような表情で立ち上がった。
「・・・いいでしょう。ここまでやる気は無かったのですが、仕方ありません。私も死ぬ気はありませんからね」
パンと大きな音を響かせてミルが両手を叩く。
すると、その音に呼応するように周囲に地響きが鳴り響いた。
「・・・何をした?森の民」
「”何もかも”を、ですよお嬢さん方。森の民を相手に森で戦った愚行を呪いなさい」
そして、それは起こった。
周囲に生えていた無数の樹木。それら全てが意志を持ったかのようにうごめきだしたのだ。




