業火
「・・・胴が真っ二つになった状態から復活されたのは初めての経験だ」
そう言いながら、ウィリアムは油断無く剣を構え直す。回復力に優れた魔族というものは存在する。しかし、胴を二つに割られた状態から一瞬で回復する魔族なんて聞いたことが無かった。
「誇れ。人間の分際で俺にこの技を使わせたのはお前が初めてだ」
見ると、先程まで深く刻まれていた右目の古傷も綺麗さっぱり無くなっていた。
(・・・ ”この技” とそう言ったな。つまりこのデタラメな回復が行われるのには何かトリガー、もしくは条件があるはず。そしてその条件はかなり厳しい・・・もしくは回復が発動することによって本人になんらかの不利益が生じる筈だ。じゃなくては、右目の傷をそのままにしているはずが無いからな)
一瞬でそこまで判断したウィリアムは。慌てる事無く冷静に相手を睨み付けた。
(・・・大丈夫だ・・・問題はない。片目が見えない状態を放置するほどのデメリット、もしくは厳しい条件があるのなら、そう何度も使えるような技ではないのだろう。ならば、その技が使えなくなるまで殺し続けるまで)
不死身の生物などいない。
殺せるのなら、攻撃が通るのならウィリアムに負ける道理などなかった。
大きく相手に向かって踏み込む。上段に振り上げた大剣を、そのままトパーズの頭に目がけ振り下ろす。
幼少の頃より何千、何万と繰り返した剣技の基本。虚実も何も無いシンプルな其の一撃は、シンプル故に使い手の技量が如実に表れる。
ウィリアムの類い希なる剣の冴えと、圧倒的な膂力により生み出される上段の一撃。必殺の筈のその刃は、しかしトパーズに届くことは無かった。
刃が振り下ろされるその刹那。トパーズはニヤリと不敵に笑って聖剣の真名を解放した。
「燃え上がれ・・・・・・ ”沈まぬ太陽の剣”」
刀身から激しく炎が噴出し、辺り一帯を灼熱の地獄へと変えた。
「言ったはずだ・・・お前が勝つことは出来ない。人間という種が、この業火に耐えれる筈も無いのだから」




