遠距離戦 3
◇
「詰めが甘いな異世界からの来訪者」
ポツリと呟く魔王サジタリウス。
追撃をせんと虚空に向かって再び連続して矢を放つ。
放たれた矢はそれぞれ不自然な程に複雑な軌道を描いて、獲物の元へと飛んでいく。
「前方からの攻撃に注意を向けすぎだ・・・背後からの奇襲にも気づけないなど、千里眼の名が泣くぞ?」
魔王サジタリウスは、放たれた矢の軌道を自由自在に操る事ができる。
能力としてはかなり地味なものだ。他の魔王のように無限に手下を召還したり、他の追随を許さない怪力を持っているわけでは無い。
しかしその能力は、サジタリウスの有する千里眼と合わさる事でこの上なく強力な攻撃手段へと変貌する。
世界中のどこにいても相手を視認することの出来る千里眼と、無限の射程を誇る魔弓。そしてサジタリウスの矢の軌道を変化させる能力。
その答えは ”必中”。
相手が誰であろうが、どこに異様が関係ない。
魔王サジタリウスの矢から逃れる術はない。
◇
背後からの矢の一撃。
混乱の中、速見は必死に立ち上がり痛みに顔をしかめながら駆けだした。
原理はわからない。しかし、この一撃は間違いなく魔王サジタリウスの手によるものだろう。
甘く見ていた。
攻撃が飛んでくる方向は前方からだけだと勝手に思い込んでいた。
相手はタダの射撃手ではない。
”魔王” の名を冠する存在に、常識は通じない。
むしろ速見は幸運だった。
矢が突きささった場所は、運良く重要な臓器をズレているようで、即死という最悪の自体は免れたからだ。
前方にのみ展開していた千里眼の視界を、360度全方位に展開する。
脳への負担が一気増加し、ズキズキとした痛みと供に右目の千里眼からは絶え間なく血が流れ続けていた。
半径10キロメートル。
自身の限界まで視界の範囲を広げ、次の攻撃に備える。
(・・・もう攻撃は始まっていたか)
半径10キロ圏内、四方八方から飛んでくる大量の矢。今度の標的は魔王城に向かう二人ではなく、全て速見に向かっている。
(つまりは、最初に二人を狙っていたのはフェイク・・・本命は千里眼を持つ俺ってわけか)
魔王サジタリウスの攻撃は回避不可能、必中の一射。世界広しとはいえ、これに対抗できるのは、同じ千里眼を有する速見だけだろう。
ならばこそ先に速見を潰そうとするのは必然。魔王城に向かう二人は、速見を殺した後にゆっくりと仕留めれば良いのだから。
チラリと矢筒に視線を降ろす。
残る矢はそう多くない。このまま馬鹿正直に正面から遠距離戦を続けていても勝機は見えない・・・・・・。
ヒタリと眼を閉じた。
ゆっくりと深呼吸をして、乱れた心を整える。
ひとつ
ふたつ・・・・・・・
カッと眼を見ひらいた。
目前には今まさに速見を射殺さんとする無数の矢。
千里眼で周囲の矢の位置を全て把握すると、サッと身を翻し限界を超えた体捌きで全ての攻撃を回避する。
簡単な事だ。二人ではなく、速見本人を狙うというのならば矢を打ち落とす必要はない。この千里眼があれば、魔王サジタリウスからの攻撃すら回避することが可能・・・・・・。
「・・・ここからが本番だぜ? 魔王サジタリウスよぉ!!」
◇




