イプシロン
空から飛来したソイツは、見るからにパワータイプといった風貌をしていた。
筋骨隆々なその体は、目測で3メートルほどの大きさだろうか? 大まかなシルエットは人型をしているが、腕は4本あり、指には猛禽類を思わせる鋭い爪が生えている事が分かった。
背中からは2対4枚の純白の翼が生えており、天使を思わせる其の翼と、無骨な体とがどうにもミスマッチに見えた。
状況から鑑みても、目の前の魔族が魔王サジタリウスの眷属であることは疑いようがない。そう判断した速見は素早く弓を構えるが、しかし横にいたウィリアムが速見を手で制した。
「まあ、待ちなって。ここは俺が引き受ける・・・・・・。せっかくだ、雇い主様に俺の実力を見せてやらねえとな」
そう言いながら一歩前にでる。
ウィリアムは背負った大剣をスラリと引き抜いた。
それは背の高いウィリアムの背丈ほどもある両刃の大剣。黒金の刀身には幾何学的な文様が彫り込まれており、薄らと発光しているその文様が、その剣が魔法武器であることを見るものに悟らせていた。
「”俺が引き受ける”だと? 見るところ侵入者3人の中でお前だけが人間のようだ。貧弱な種族である人間がたった一人でこの俺と対するだと・・・・・・?」
相対する魔族は目の前に立ちふさがっているウィリアムをギョロリと睨み付けた。
「舐めるなよ人間。俺は魔王サジタリウス様の数少ない親衛隊が一人。そこいらの魔族と一緒にするな」
ドスの効いた声で威圧する魔族に対し、ウィリアムは涼しげな顔で剣を構える。
「お前こそこの俺をそこいらの人間と一緒にしない方が良い。俺の名はウィリアム・J・ビルドゥ。今はまだ何物でも無いが・・・・・・恐らく俺は人類で最強だ」
その不遜な物言いに、流石の魔族もポカンと口を開ける。そして我慢がならないとばかりにその場で笑い出した。
「ハハハハh!! そうかそうか、よく吠えたウィリアム・J・ビルドゥ。まだ何も成し遂げていないにも関わらずそこまで大見得を切れるとは大した物だ。いいだろう・・・俺の名はイプシロン! 魔王サジタリウス様が親衛隊の一人! もし貴様が最強だというのなら、親衛隊の中で最強の身体能力を持つこの俺を打ち破ってみせろ!」
そして闘争は始まった。
仕掛けたのはイプシロン。
強靱な脚力で地面を踏み込むと、その巨体からは想像もつかないスピードで距離を詰めてくる。
四本の手にギラリと光るは肉食の獣を思わせる鉤爪。其の鋭さはそこいらのナマクラなんて何の問題もなく切り裂いてしまいそうな威力を秘めていた。
4本の豪腕がブンと唸りを上げて四方八方から振るわれる。巨体故のリーチも相まって、ウィリアムの逃げ場なんてどこにも無かった。
しかし当のウィリアムは余裕の表情でニヤリと口角をつり上げる。
「なんだ・・・・・・そんなものか」
次の瞬間、ウィリアムの姿がかき消えた。
否、視認すら難しい速度でイプシロンの攻撃をくぐり抜け、その背後へと移動したのだ。
驚愕の表情を浮かべるイプシロンの背後で、ウィリアムはゆっくりと剣を背中に背負いなおした。
イプシロンは震える声で背後のウィリアムに語りかけた。
「・・・・・・認めようウィリアム・J・ビルドゥ。お前が最強だ」
次の瞬間、イプシロンの体が真っ二つに裂けた。
彼の返り血を浴びながら、ウィリアムはイプシロンの最後の言葉に返答する。
「・・・・・・ああ、知っている」
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