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森の民 2

 両目に涙を浮かべたノアが、おぼつかない足取りで駆け寄ってくると、ヒシと速見に抱きついた。ギュッと背に回された少女の手は、小さく震えているのがわかった。


「・・・・・・怖い思いをさせちまったなノア」


 速見は優しく少女の頭を撫でる。


 自身を看病してくれた、 ”ミル”と名乗る森の民の青年に、速見はノアの事を尋ねた。自分が倒れていた場所の近くに、変わった言葉を話す少女がいなかったかと。


 どうやらノアはミルによって保護されていたようで、すぐにミルはノアを連れてきてくれたのだ。


 泣きじゃくるノアを優しく慰める速見。そんな二人をミルは目を細めて眺めていた。


「まるで親子のようで微笑ましいですねハヤミ殿」


 朗らかなミルの声に、速見はチラリと目線を上げた。


「ったく、結婚もしてねえのに子供ばっかり増えやがる・・・・・・まあ、悪かねえがな」


「ふふ、それもまた精霊のお導きでしょうね」


「精霊・・・か」


 精霊。


 森の民にのみ見えるという秘匿されし存在。速見もその存在は噂程度でしか聞いたことが無いが、ミルの言葉を聞くと、どうやらその存在は森の民にとって信仰の対象でもあるようだ。


(信仰の類いは下手につつくと面倒な事になりやすい・・・少し興味はあったが、精霊について詳しく聞くのは止めといた方がよさそうだな)


 全く見知らぬ地に放り出されたのは、初めてでは無い。未開の地での世渡りの仕方を、速見は十分に心得ているのだ。


 そんな速見の気持ちを知ってか知らずか、ミルは精霊についてそれ以上言及することも無く、彼の興味は速見ではなく、速見にしがみついて泣いているノアの方に向いていた。


「それにしても・・・私は若い頃、精霊の秘奥を求めて世界中を旅したものですが、この娘の話す言葉・・・こんな不思議な発音の言語は聞いたことがありません」


「・・・・・・へえ」


「ハヤミ殿、この娘はどちらの出身ですかな? 私のまだ見たことの無い土地があるのかと思うと、年甲斐も無くワクワクしてきたものですから」


「いや・・・ノアとは、たまたまそこの森で出会ったんだ。残念ながら出身地はおろか、本当の名前すらわからない・・・」


「そうなのですか・・・しかし、言葉も通じずにここまで心を通わせられるとは。速見殿、アナタはとても優しい方なのですね」


「・・・・・・そうかい」


 せっかくの賛辞も、しかし速見は上の空であった。


 森の民は長命の種族だ。其の寿命は、動物というよりも植物のソレに近い。真偽のほどは定かでは無いが、数千年前から生きている個体すらいるという。


 そんな長命の種族が旅したという ”世界中”。それは人間の言うような旅の規模ではないだろう。恐らく本当に世界の隅々まで旅をして回った筈だ。


 世界を旅した森の民すら、”聞いた事の無い” 発音の言語。


(・・・だとするならばそれは ”この世界の言語ではない” 可能性がある・・・・・・)


 速見は複雑な顔で腰元で無く少女を眺めるのだった。



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