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森の民

 鼻孔をくすぐる森の香り。


 意識がゆっくりと覚醒していくのがわかる。意識の覚醒と供に感じるは全身の痛み。ズキズキとした不快な感覚を感じながら、速見は静かに瞼を上げた。


 見慣れない天井。木材の素朴な色合いが心を落ちつかせるようだった。


「・・・・・・どこだ此処は?」


 ポツリと呟く。


 周囲を見回すと、どうやら自分は木造の小部屋に寝ているようだった。調度品の類いが見当たらない不自然なほどシンプルな部屋・・・速見が寝ているベッドには、木製の骨組みの上に乾燥した藁を敷き詰めたもののようだった。


 記憶をたどってみる。


 思い出すは牙をむくモンスターのアギト・・・グレードベアとの死闘。


 そこまで考えてふとおかしくなる。つい数日前まで世界を滅ぼす魔神と争っていた自分が、グレードベアとの闘いを死闘とは・・・・・・。まるで自分が人間に戻ったような・・・・・・そんな感覚が・・・。


 部屋の扉が開かれる。パッと視線を向けると、そこに立っていたのはすらりとした体躯の青年だった。


 涼しげな緑色の髪の毛がサラリと風にながれる。


 青年は、その外見に見合わないどっしりと落ちついた低音の声で話しかけてきた。


「やあ、どうやら目覚めたようですね旅人の方」


「・・・・・・アンタが手当をしてくれたのか?」


 どうやら傷口には包帯が巻かれているようで、状況から見ても目の前の人物が手当をしてくれた事は明確だった。


 青年はくすりと上品に笑うと、静かに近寄ってくる。


 そこで、速見は初めて目の前の青年が人では無い事に気がついた。


 鮮やかな緑色の体毛、驚くほどに整った顔立ちと特徴的な尖った耳・・・・・・それは、噂に聞く ”森の民” の特徴と合致している。


「・・・・・・アンタ、森の民か?」


 ”森の民”


 それは森の秘境に住む、すべてが謎に包まれた長命の種族。噂には、彼らだけに見える”精霊” の秘奥を守護するために他の種族の前に姿を現さないのだとか・・・。


「如何にも・・・・・・そして、アナタも只人では無いらしいですね」


 柔らかなその言葉に、速見は無言で頷いた。完全な魔族では無いにしても、クレア・マグノリアによって改造されたこの身は、すでに人ではなかった。


「警戒しなくて大丈夫・・・我ら森の民はあまり他の種族と交流は無いですが、別に敵意を持っている訳ではありません。怪我をしているのなら親切心で助けたりもします」


 そして森の民の青年は、速見に木製のコップを差し出した。受け取って中を覗いてみると、そこには薄茶色に濁った液体が並々と注がれていた。


「それは薬草を煎じたお茶です。怪我の治りが早くなります」


 促されるままにコップに口をつける。薬草の茶をそっと口に含むと、意外にも口当たりはまろやかで、ほんのりの甘みすら感じられた。


 少し驚いた表情を浮かべた速見に、青年は嬉しそうに説明をした。


「旨いでしょう? 通常の薬草茶はかなり苦いのですが、私が少し手を加えてます。このアレンジは里の子供達にも人気なのです」


 そして青年はニッコリと上品に微笑む。


「傷が癒えるまでゆっくりしてください。我々森の民はアナタを歓迎します」




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