援護射撃
「・・・ああ、やっと復帰ですか? レディは支度に時間がかかるものと言いますし、仕方の無い事ですかね」
サラリとそう言いながら、先ほどから魔神と剣を交えていた騎士アルフレートがクレアのためにスペースを開ける。
その空いたスペースに滑り込んだクレアは、異形と化した右腕で魔神の顔面を思い切り殴りつけた。
不意を打たれた魔神はその攻撃をまともに受けてしまい、クレアの桁外れな膂力も相まって、地面と平行に飛んでいく。
「史上最強の騎士様がそんな皮肉言っちゃ駄目よ? 騎士の名が泣くわ」
「それは失敬。どうやら私も、自分で思っていた以上に余裕が無いようだ」
その言葉通り。普段は柔らかな笑みを絶やさないアルフレートが、厳しい顔をして魔神の様子を伺っている。百戦錬磨の彼をして、これほどの強敵を相手にするのは初めての経験だったのだ。
「ふふ・・・痛い痛い」
そう呟きながら、魔神がゆっくりと立ちあがる。七色の光を放つ複眼が、ギョロリと二人を同時に見据えた。
「いきなり顔を殴るなんて酷いじゃあないか。私と君の仲だろう?」
魔神の言葉に、クレアはその美しい顔を思い切りしかめた。
「・・・そうね、確かにかつてのアタシだったらアナタの顔を殴るなんてしなかったでしょうね・・・・・・」
そしてクレアはカッとその瞳を見開く。
同時に彼女の体から放たれた大気を焼き尽くすほどの圧力をもったオーラが周囲を威圧した。
「だけど今のアタシは違う・・・何度でも、そのムカつく面をぶん殴ってやるわ」
「悲しいなあ。君にはかなり期待していたというのに・・・つまらない女になったものだ」
魔神の言葉に沈黙で返答したクレア。彼女は獣のソレへと変化した右手にグッと力を込めると、視認すら難しいスピードで魔神へと一気に肉薄する。
その一撃はまさに神速。
おそらく魔王と呼ばれる強者達ですら回避することは困難な究極の一撃。しかし当の魔神は慌てるでもなく、ギョロリと複眼を動かしてクレアの動きを観察すると、迎撃の体勢を整えた。
魔神の体から発される七色の光が、彼が突き出した右手に収束していく。
ソレは全てを消滅される虚無のエネルギー。
”魔神” という存在の、力の象徴。
ソレに触れたモノは、例外なくその存在が崩壊してしまう。
すべてに平等な ”死” のごとき絶対的な力。
その光は、一直線に突っ込んでくるクレアに向かって照準を合わせている。回避はまにあわない。クレアの突進は、スピードが凄まじすぎて、本人にすら制御ができないのだから。
絶対的な死の未来。しかしそれは、外部から放たれた一発の銃弾によって覆される。
乾いた銃声。
放たれるは狙い澄まされた、たった一発の光弾。
それは神速で移動するクレアをも超えるスピードで、迎撃の態勢を整えている魔神の右腕を綺麗に撃ち抜いた。
驚いた表情を浮かべる魔神。クレアに向けて放たれる筈だった攻撃は大きく的を外し、骨のドームに穴を開ける。その間に一気に間合いに入ったクレアが、魔神の整った顔を見上げて、ニヤリと凶暴な笑みを浮かべた。
「貰ったぁ!!」




