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武人として



 血を血で洗うような激闘の最中、突如力が抜けたかのように膝をつくフリードリヒ。対峙していた速見は、訝しげに眉をひそめた。


「・・・どうした? そんだけ改造されまくってるテメエが、まさか疲れたなんて言わねえよな?」


 無銘の引き金に指をかけながら、それでも相手に起こった異変を問う速見。しかしフリードリヒは穏やかな表情でそっと口を開いた。


「・・・・・・魔王ジェミニによる呪縛が解けたようだ。どうやらあの道化は死んだようだな」


「そうか・・・それで、お前は死ぬのか?」


 速見のその問いに、フリードリヒは澄んだ瞳でそっと見返してきた。憑きものが取れたようなその表情に、速見は全てを悟る。


「・・・・・・悲しみはない、恐怖もだ。私はとうの昔に死んでいたのだから。これ以上恥を上塗りする前に消える事ができるのなら本望だよ・・・」


 その静かな声は、言葉とは裏腹に何か無念さを感じさせるような、そんな色をわずかに含んでいた。


「言い残した事はあるか?」


「聞いてくれるというのか? こんな無様な男の言葉を」


 無言で頷く速見に、フリードリヒは消えるような小さな声で「ありがたい」と呟いた。


「最後は武人として死なせてくれ。こんな私には、過ぎた願いかもしれないが・・・」


 フリードリヒの最後の願い。速見はゆっくりと彼に近寄ると、彼のこめかみに無銘の銃口をつきつける。


「あばよフリードリヒ将軍」


「ああ、さらばだハヤミジュンイチ一等兵。貴殿との戦い、悪くなかった」


 乾いた銃声が響き渡り、フリードリヒの巨体が力を失い地に倒れる。偽りの命を失った武人のその表情は、何か満足げな表情を浮かべているのだった。


 しばらくその様子を見つめていた速見は、懐から一本のタバコを取り出すと口にくわえ、ソッと火を付ける。


 吸い込んだ煙が肺を満たしていく。ソッと宙に煙を吐き出し、顔に付着した返り血を拭う。


「・・・ったく、武人の真似事か? 似合わねえよオレにはな」


 独りそう呟いた速見は、どこか泣いているような顔をしていた。








「ハヤミ!」


 聞き慣れた声に振り返ると、そこには分断されたマルクやシャルロッテ達がこちらに向かってくる姿が見えた。


「おう、生きてたか」


「なんとかね・・・急にピエロ達が消えてくれて助かったよ」


 マルクと互いの無事を確認し合った後、速見は真剣な表情で口を開いた。


「・・・・・・どうにも、何か予定外の事が起こってるクセえな。空気がピリついてやがるぜ」


 速見の言葉に、エリザベートが答える。


「ええ、予定ではワタクシ達の仕事はこれで終わりでしたが・・・・・・少し向こうの様子を確認した方が良いかもしれませんわ」


 エリザベートが指さした方向には、地面からにょっきりと生えた巨大な骨のドーム。元勇者との決戦の場だ。


「そうだな・・・まずはオレが確認してみる。ちょっと待ってな」


 そう言うと、速見は己に移植された ”魔王サジタリウスの右目”を発動させる。速見の右手が紅く染まり、千里眼と呼ばれた能力で遠く離れた骨ドームの内部を透視する。


「・・・・・・何だ・・・・・・これは・・・」


 驚愕の表情を浮かべる速見。その尋常じゃ無い様子に、隣りにいたエリザベートは何事かと尋ねようとするが、それよりも早く、速見は脇目もふらずに駆けだしたのだった。

 


 

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