真の半身
息を荒げながら森を疾走する人影。
そのスピードは常人には視認することすら困難で、その人物が只者ではない事を悟らせる。
人影・・・道化服の魔王ジェミニは、瀕死の重傷を負いながら、しかしそれを気にする様子も無く、ただひたすらに走り続ける。
やがてたどり着いたのは、地面からにょきにょきと生えた骨のドーム。ジェミニは両手から特大の火球を出現させると、ドームの壁にソレをを叩き込む。
魔王の本気の一撃は、呆気なく骨の壁を打ち砕いた。
ドクンドクンと早鐘を打つ心臓を押さえながら、魔王ジェミニはドームの中に侵入する。
「・・・・・・あぁ」
思わず漏れる感嘆の声。
彼の視界に映り込んだのは、三人の強者と相対する、長年焦がれ続けた絶対者の姿。
二対四枚の漆黒の翼。七色の輝きを放つ両目の複眼。まだ完全体では内容だが、かの存在こそが、魔王ジェミニが長年焦がれ続けた魔神ギャラクシーその人だった。
突然の侵入者に対し警戒する強者たち。しかしジェミニはそんな三人など目に入らないかのように、その視線は魔神だけを見つめている。
「あァ・・・魔神様・・・・・・我が真の半身よ・・・」
魔神の足下まで歩み寄り、平服するジェミニ。そんな彼に、魔神ギャラクシーは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「久しいな魔王ジェミニ、出来損ないの双子座よ」
「悠久の時を・・・この瞬間を夢見て戦っテまいりましタ。我が半身、今再びアナタに仕えマス」
ジェミニは魔王として出来損ないであった。「双子座」の魔王の座は、本来二人一組の魔族がその任を背負う。
しかし魔神により召還された「双子座」の魔王は、片割れのいない出来損ないの魔王だったのだ。
ジェミニはそんな自分を恥じた。
完全な存在である魔神の使徒として、自分は相応しくないのではと思い詰め、自害を試みた事もある。
しかしそんな時、彼を引き留めたのが魔神その人だった。
―――魔王ジェミニ、君が半身が居ないことを気に病むのなら、私が君の半身となろう。
―――君は私と供にあってこそ完全な存在となる。
―――だから
―――安心して私に仕えるといい
ジェミニは、数少ない魔神に直接仕えた魔王の生き残りだ。
「双子座」の名を冠する魔王は歴代でも彼以外に存在せず、その魔神に対する忠誠心は誰よりも強い。
ジェミニは再び半身と供にあれる喜びに打ち震えながら、深く忠誠の意を示すのだった。
「ありがとうジェミニ・・・でも、再び仕える必要は無いよ」
「・・・・・・え?」
予想外な魔神の言葉に疑問を口にするジェミニ。顔を上げると、魔神ギャラクシーが微笑みながら腰を下ろし、ジェミニと視線の位置を合わせる。
七色に輝く複眼が、ジェミニをギョロリと見つめていた。
次の瞬間、魔神の白い右手がジェミニの心臓を貫いた。何が起こったのかわからないという表情で血を吐く魔王ジェミニと、その様子を柔らかな表情のまま見つめる魔神。
引き抜かれた右手には、魔王の心臓が握られていた。
「ありがとう魔王ジェミニ。これで私たちは真に一つの存在だ」
倒れ行く魔王ジェミニを見ながら、魔神ギャラクシーは右手に持ったジェミニの心臓を口に運び、ゆっくりと嚥下する。
ドクンッ。
魔神の鼓動が一つ鳴り、魔王ジェミニの魔力が魔神に吸収されていく。すでに強大だったその魔力が一層高まり、邪悪なオーラが周囲に滲み出る。
「さあ、第二ラウンドだ君たち・・・・・・準備運動くらいにはなってくれよ?」
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