突然の 2
魔神ギャラクシーは、静かに微笑むと、ギョロリと目を動かして周囲を確認する。深紅に染まった複眼が魔王パイシスを捉えると、興味深そうな表情を浮かべた。
「・・・おや、魔王パイシス。察するに、君はこの私を裏切ったのかい? 私に直接仕えた事のある、数少ない魔王である君が」
ギャラクシーの言葉に、パイシスは少し緊張したような声音で返答をした。
「申し訳ございません魔神様・・・・・・しかし、私には偉大なる貴方様に逆らってまでかなえたい願いがあるのです」
「ほう・・・他の誰でも無い、君がそれを言うのか・・・ふふ、私はよほど長い間眠っていたようだね」
そんな会話が繰り広げられている間も、手首を掴まれたクレアは必死で魔神の手をふりほどこうともがく。しかし、無数の魔族の力を取り込んでいるクレアの剛力を持ってして、魔神の手はピクリとも動きはしなかった。
「焼き切れ! ”沈まぬ太陽の剣”!」
魔神がパイシスと会話をしている最中、静かに距離を詰めていた騎士アルフレートが聖剣の真名を解放、灼熱の刃で、クレアを拘束していた魔神の右腕を切断する。
吹き出す七色の体液と、少し驚いたような表情を浮かべる魔神ギャラクシー。拘束が解けたクレアは、素早い動きで距離を取ると、息を乱しながら魔神を睨み付けた。
しかしそんなクレアには目もくれず、魔神は歪に口角をつりあげながら騎士アルフレートに語りかける。
「驚いたよ・・・完全体で無いとはいえ、まさか人間ごときがこの私に傷をつけるとはね。正直人間という存在を舐めていたようだ」
「かの魔神様に評価していただけるとは光栄の至り。驚きついでにその命の灯火も吹き消して差し上げましょう」
にこやかにそう言い放ったアルフレート。その闘志に呼応するかのように、手元の聖剣から灼熱の業火が吹き出した。
ジリジリと距離を詰めていくアルフレートと、その様子を興味深そうに見つめる魔神ギャラクシー。そんな一触即発な雰囲気の中、クレアの隣に近づいてきた魔王パイシスがそっと耳打ちをする。
「落ち着けクレア・マグノリア。まだ私たちの敗北は確定していない」
「・・・・・・どういうこと? アンタ、復活した魔神に対応できる策でもあるの?」
クレアの言葉に、パイシスは静かに首を横に振った。
「魔神様が完全に復活したのなら、今の我らに勝ち目は無い・・・・・・だが復活は完全では無い。魔神様が封印された時、その身は ”魂” ”肉体” ”心臓”の三つに分断されて封印された・・・完全なる復活のためにはその三つが揃うことが大前提、例外はない。今のあの状態は、元勇者の意識を乗っ取って遠隔で操作しているだけだろう。エネルギーの出力は先ほどまでと変わらん。ただ、力に振り回されていた元勇者とは違い、力の扱い方には長けているだろうがな」
「・・・・・・つまり?」
クレアの問いに、重々しく頷くパイシス。
「状況は先ほどと変わってはいない。今この場で勇者の肉体を滅ぼし、魔神様の心臓、命の宝球を再び封印する」
「・・・・・・ありがとう。少し動転していたわ。私らしくも無い」
クレアの言葉に大きく鼻を鳴らすパイシス。
「あのお方と面識があるのならそうなって当然だ。この私とて動転している・・・むしろ、一切の面識がない騎士アルフレートだけが冷静さを保っているのも道理だ。完全復活したあのお方は・・・それほどまでに恐ろしいのだから」
ぶるりと骨だけの体を震わせるパイシス。
「・・・行きましょう魔王パイシス。これで、終わらせなくちゃ」
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