突然の・・・
◇
「・・・・・・はぁ、タフなのも大概にしてくれるかしら。そろそろアタシ疲れてきたんだけど」
クレアが深いため息をつく。
その視線の先にいるのは、もはや原型を止めていない、かつて勇者と呼ばれた化け物の姿・・・。ドロドロに溶けた皮膚と変形した骨格、盛り上がった筋肉に、瞳からは七色の光が漏れ出している。
もう人とは呼べない・・・魔族ですら、こんなにも醜悪な外見をした存在はいないだろう。今は地面から突き出した骨の杭によって体を拘束されている。
「お疲れですかクレア嬢。ならば後は私に任せていただいても結構ですよ?」
にこやかにそう言うのは、人類最強の男。”騎士の中の騎士” アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥ。
体には傷一つ無く、表情も涼しげで疲労の色は見えない。その手に握られた太陽の聖剣が、任せろとばかりにその輝きを増した。
「あら、優しいのね・・・でも大丈夫よ、今のはただの愚痴・・・・・・この仕事だけは失敗する訳にはいかないのよね」
そしてクレアは、戦闘用に変形させた自身の右腕をゴキリと鳴らした。スラリと美しい彼女には不釣り合いの異形の右腕。胴ほどもある太さの筋肉と、湾曲した獣の爪には返り血が付着している。
「おしゃべりはそこまでだ二人とも・・・そろそろ決めるぞ?」
魔法で化け物を拘束していた魔王パイシスが声をかける。見ると、ちょうど化け物が杭の拘束を破って動き出した所だった。
「最大火力をぶち込むぞ・・・続け!!」
パイシスの言葉に二人は無言で頷く。
パイシスは骨の掌を突き出し、照準を合わせると長年の研究の末にたどり着いた究極の攻撃魔法を展開する。
「 ”ゴッド・サンダー・ランス”」
眩しすぎて視認する事すら困難な雷の槍。極限まで魔力が凝縮されたその一撃が、化け物の体を飲み込んだ。
続いて史上最強の騎士が聖剣を構える。太陽の聖剣が灼熱の炎をまとい、周囲の気温が上昇する。
「”沈まぬ太陽の剣”(サント・ルス)」
真名を解放し、その刃を振り下ろす。放出された数千度の炎。その後を追いかけるように、その異形の手で化け物にトドメをささんとクレアが駆けだした。
「これで、終わりよ!」
モウモウと土埃が舞い上がる中、煙の中で揺れる影に目がけて右腕を振り下ろす。その命を刈り取らんと獣の爪がギラリと光り・・・・・・煙の中からニュッと出てきた、白く美しい人間の手によって、クレアの一撃は優しく受け止められる。
「・・・・・・え?」
突然の出来事に間抜けな声を上げるクレア。やがて煙が晴れ、そこに現れたのは醜い化け物ではなかった。
「・・・・・・あぁ、やっと出てこられたよ」
透けるような透明感のある肌。さらさらと流れる銀色のロングヘア。男か女かわからない中性的な顔は、恐ろしいほどに整っている。
ヒタと閉じられた瞼がゆっくりと開かれる。漏れ出した七色の光が呆気にとられている三人を照らし出す。
開かれた目の中には、深紅の虹彩が三つ。それがギョロリと動いて目の前のクレアを捉える。
「やあしぶりだね、クレア・マグノリア・・・・・・しばらく見ない内に随分と醜くなった」
クレアは驚愕に震えながら目を見開いて、その人物を凝視した。そっと開かれた唇から発される声は、か細く震えている。
「もう会いたくは無かったわ ”魔神ギャラクシー”」




