されど魔王 4
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白狼に乗った少女により放たれた広範囲魔法 ”メガ・ファイア・レイン”。
掲げられた杖から展開された特大の火柱が天へと登り、無数に分かたれて地へと降り注ぐ。それはまさに焔の雨。されどその一粒一粒が必殺の威力を秘めている。
「むふフ・・・思っていたよりやりマスねェ」
少し離れた高台から戦場を見下ろす一人の道化。
彼は自分とそっくりな道化達が、火の雨に焼かれていく様を見ながら、一人静かに微笑んでいた。
「ここまでは順調・・・順調なのデスが・・・・・・一つだけ計算外の要素が紛れ込んでいたらしイですネ」
そしてくるりと背後を振り返る魔王ジェミニ。
その視線の先には、静かに目を閉じた長髪の女性の姿。
「どうやっテこの場所に紛れ込んだのデス? 邪魔者が入らないようにアラユル手をつくしているのデスが・・・」
ジェミニの言葉に、長髪の女性・・・アミュレットの守護者、フィエゥはクスリと笑った。
「お友達に少し手助けをしてもらったのですよ・・・本当ならすぐにでもあの出来損ないの魔神を滅ぼさねばならない所ですが、まずはアナタから片付けないといけないようです」
そしてフィエゥはゆっくりとその目を開く。瞳から漏れ出した七色の光が怪しげにジェミニを照らしだす。
「ホホ・・・怖い怖い。ワタクシなど弱小魔王は放って置いて、一刻も早く元勇者殿を片付けた方が良いのでは? ・・・手遅れになっても知りまセンよ」
ジェミニの言葉に無言で微笑んだフィエゥ。次の瞬間にはその姿がフッとかき消える。背後から放たれるゾクリとするような殺気。ジェミニが振り返ると同時に、その体に握り拳大の、七色に輝く光球が着弾する。
(・・・この、エネルギー・・・ハ・・・!?)
フィエゥの攻撃を受け、初めて焦りを見せるジェミニ。
光球が触れた部位・・・左肩の肉を自分でえぐり取る。その刹那の判断は正解だったようで、えぐり取られた左肩の肉は、光球に飲み込まれて消滅した。
呆気にとられた様子のジェミニを見て、フィエゥは小さく笑う。
「魔神の力で暴走している元勇者と同じに考えていましたか? 私は長きに渡ってこのアミュレットを・・・魔神の肉体を守護してきたものです。力のコントロールなどすでに完璧に習得しているのですよ?」
「フホホ・・・それはそれは・・・」
少し落ち着きを取り戻したジェミニ。えぐり取った左肩がゆっくりと再生を始める。
「そして今の攻防で理解できました・・・・・・その焦りようから見るに、アナタが魔王ジェミニの本体ですね?」
「クフフ・・・鬼の首でも取ったようですねェ・・・しかしだからどうだと言うのデス? 本体を倒せばそれで終わりダト?」
肩を震わせて笑う魔王ジェミニ。
突如その笑いがピタリと止まり、道化の体から激しい炎が巻き起こった。
「舐めないで下サイよアミュレットの守護者・・・所詮は魔神様の力を借りているだけの紛い物が、このジェミニを倒すと?・・・・・・少し、調子に乗りすぎデスねェ」




