されど魔王
「疾っ!!」
鋭く短い息を吐き出し、麗しき赤髪の女騎士、アンネ・アムレットは剣を振るった。
対魔物用に、銀のコーティングが施された刃が描く白銀の剣線が、彼女の目の前にいる道化師を両断する。
吹き出す鮮血。返り血で真っ赤に染まったアンネは、荒い息を吐きながら、鋭い目線で周囲を見回した。
「あァ、酷いことをしますねェ。まさか愉快なピエロを真っ二つにしてしまうなんテ・・・・・・ワタクシ、悲しクてカナしクテ・・・・・・」
そう言いながら、ケタケタと不快な笑い声を上げる道化達・・・周囲を埋め尽くすほどの同じ姿をした道化服の集団。
”魔王ジェミニ”
原理はわからないが、ジェミニは複数に分裂することができるらしく・・・そしてその一体一体がそれなりの実力を持っているという厄介極まりない存在だった。
近接戦闘力は魔王カプリコーンの足下にも及ばず、物量では魔王ヴァルゴに劣る。魔法の深淵を極めた魔王パイシスのような万能性も無いだろう。
しかし彼は仮にも魔王の一角。たった一人で人類を滅ぼせるほどの戦力を持つ存在。
そしてなにより、魔王ジェミニの能力は、歴史上で一度もその正体を知られた事はないという謎に包まれた魔王なのだ。
「・・・カテリーナ、プロテクションはあとどれくらい持ちそうだ?」
アンネは、油断なく周囲に目を光らせながら、背後でプロテクションを行使して己の身を守っているカテリーナに声をかけた。
聖女カテリーナは、少し苦しそうな顔をしながら口を開く。
「・・・保って数分といった所でしょうか。すいません、私のせいでご迷惑を・・・・・・」
非戦闘員であるカテリーナは、自身の存在がアンネの足かせになっている事を感じていた。特に周囲を圧倒的な数の敵で固められたこの状況・・・自身を守るプロテクションの奇跡が切れた時、敵は一斉に彼女に襲いかかってくるだろう。
「ふっ、気にするなカテリーナ。数分もあれば十分だ・・・・・・ようは、あと数分でこいつらを全員切り刻めば問題ないのだろう?」
不敵に笑うアンネ。こんな状況でも強気な彼女の言葉に、周囲を囲っていた道化師たちが爆笑をする。
「うふふフ!! あと数分で切り刻ム? このワタクシたちヲ!? いいでしょウ・・・そこまで言うのナら、お遊ビは終わリですよォォ!!」
そして同時に両手を広げる道化たち。その掌から巨大な火球が生まれる。
「四方八方から飛んでくる無数の火球・・・アナタに捌けマスかね?」
そして全ての道化が、アンネとカテリーナに向かって火球を放り投げる。隙間の見えないほどの集中砲火・・・。圧倒的な絶望、しかしアンネの目にはまだ希望が灯っていた。
「一部の隙もないのなら、全ての火球を切り裂くのみ!!」
剣の柄を強く握り・・・次の瞬間、彼女とカテリーナの周囲を囲むように、地面からにょきにょきと、骨で出来た壁のようなものが出現して、火球の攻撃から彼女たちを守る。
「・・・”ボーン・シールド” なんとか間に合いましたね」
現れたのは、息を切らしたマルクと、怪我だらけながらすまし顔をしているエリザベートの二人組だった。




