裏切りの騎士 3
もう人で無くなった二人の男。
どちらとも無く同時に動き出す。
漆黒の兜を投げ捨てたフリードリヒ。ランスと盾を拾い上げ、体を半身にして大盾を前方に構える。盾の横から覗くその鋭い目線が速見を睨め付けた。
速見も流れるような動きで無銘を構える。ヒタと相手を見据えて、隣で待機していた白狼の太郎に声を掛けた。
「ここは大丈夫だ太郎・・・俺はいいから、シャルとマルクを守ってやってくれねえか?」
速見の言葉に何かを察した太郎は、神妙な顔つきで頷くと、脱兎のごとく素早さでその場を離れた。
残されたのは二人の戦士。
極度の集中によって、速見の周囲から目の前の騎士以外の情報がゆっくりと消えていく。魔王と仲間達による激しい戦闘の男、焼けた戦場の香りも・・・周囲の景色ですらもぼんやりと霞んでいき、真っ白な空間に漆黒の騎士だけがくっきりと浮かび上がった。
「では、ゆるりと行こうかハヤミ一等兵殿」
「ああ、全力で来な、フリードリヒ将軍」
◇
突然の出来事で状況が理解できない。
否、理解はしているのだが体が動かなかった。
シャルロッテは一瞬にして焦土に変わった戦場を見ながら、一人ボウッと立ち尽くしていた。
一緒に居たハヤミは、彼女を巻き込まないようにと、漆黒の騎士と戦いながら遠くに離れていった。
少し先を見回すと、道化師の集団と戦うマルク達の姿が見える。
加勢しなくては・・・そうはわかっているのだが、驚きやら恐怖やらが頭の中で爆発して彼女の思考はショート寸前になっていた。
彼女の意志に反して、体が一歩も前に進んでくれないのだ。
「ワォオン!!」
そんな彼女の耳に飛び込んできた狼の鳴き声。そして巨大な白狼がそっとシャルの隣にすり寄ってきた。
「・・・タロウ?」
それはハヤミの相棒である白狼、タロウであった。
彼は知性を感じさせる瞳でジッとこちらを見つめてくる。その瞳を見つめているうち、シャルロッテは自身の内に渦巻いていた負の感情が次第におさまってくるのを感じた。
「・・・・・・ありがろうタロウ。私はもう大丈夫」
彼女の言葉に深く頷いたタロウは、そのままグッと体勢を低くした。
「私に乗れって事?」
再び頷くタロウ。シャルロッテは恐る恐るといったふうに彼の背中にのった。
スックと立ちあがるタロウ。彼は自身に乗ったシャルロッテがしっかりと捕まったのを確認すると、鋭い牙を剥き出しにして、戦場に向かって駆けだしたのだった。
◇




