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裏切りの騎士


「・・・さて、お疲れさん。俺達の仕事は終わったな」


 視線の先で魔王パイシスによる大規模魔法の発動を確認してから、速見はグッと伸びをしてこわばった筋肉をほぐす。


 速見の役割は援護射撃。激しい戦闘の最中、味方に当たらぬように正確な射撃をするというのは存外疲れるものだ。


 今ごろ骨のドームの中では苛烈な戦闘が行われているだろう。戦いのレベル敵に、自分たちが参戦してもむしろ足手まといになってしまうような、そんな戦闘が。


 自分たちの仕事は終わった。しかし隣りにいるシャルロッテはどこか顔色が悪く、時々キョロキョロと周囲を見回していた。


「どうしたシャル? 何か気になることでもあるのか」


 そう聞いてから速見はしまったと、自分の軽率な発言を恥じる。


 今回のターゲットは元勇者の少年・・・自分に取っては面識の無い赤の他人ではあるが、シャルロッテはその少年と一緒に旅をしてきたのだ。謂わばかつての仲間、心優しいこの娘が心を痛めない筈がないのだから。


「すまんシャル、俺が軽薄だった・・・かつての仲間と戦ってるんだもんな。だけどお前が気負う必要は無い・・・恨むなら俺を恨んでくれて良い」


 速見の言葉に、シャルロッテは静かに首を横に振った。


「ありがとうハヤミ・・・でもそうじゃないの。確かに勇者さんと戦うのは辛い・・・でも今私が気にしているのはそうじゃなくて・・・」


 そしてシャルロッテは再びキョロキョロと周囲を見回すと、何かを決心したかのような表情でハヤミに向き合った。


「・・・・・・ハヤミ。私、アナタに言わなくてはいけないことがあるの」


 それは何かと問いかけようとしたその瞬間、速見は背後から強烈な殺気を感じて振り返る。


 振り返った視界のその先に映ったのは、漆黒の鎧を身に纏った偉丈夫の姿。左手には巨大な盾、右手には背丈を超える大ぶりのランス。


 行方不明になった筈の暗黒騎士フェアラートが、右手に構えたランスの切っ先を速見目がけて振り下ろす。


 殺気に気がついていた速見は、すんでの所でその突きを回避すると、何が起こっているのか理解できていないシャルロッテの細い体をかかえこんでサッと後方に距離を取る。


 意外にもフェアラートはすぐに追撃をしかけては来なかった。彼は前線で戦う騎士だ。いかに戦闘能力が上がっていても速見は所詮スナイパー。近距離でフェアラートに敵うはずもない。


 しかし彼は速見が距離を取るのを黙ってみていた。その事が酷く不気味であった。


「・・・何のつもりだ後輩君。今更ご主人様に反旗を翻すってか? 俺は止めた方が良いと思うがね」


 軽口を叩きながら、速見はチラリと横目でシャルロッテを確認する。


 彼女は未だに何が起こったか理解し切れていないようで、戦力としては期待できそうになかった。


(どっちみち後方支援が二人じゃあ戦闘にならねえな・・・誰か前線組に助けを・・・)


 そして周囲を見回した速見は唖然とする。


 何故なら彼の仲間達はすでに戦いの最中にいたのだ。


 相手は数えるのもおっくうなほどの道化の姿をした軍団。その姿には嫌に見覚えがあった。


「・・・魔王ジェミニ?」


 暗黒騎士と同じく行方不明になっていた魔王の一人、ジェミニ。この二人が敵対してきた理由はわからない・・・が、タイミングは最悪だった。


 こちらの主戦力はみな勇者と戦っている。対して相手は魔王の一角と、クレア・マグノリアによって魔改造された騎士。おそらくフェアラートが同じくクレア・マグノリアに改造された速見を押さえている間に、魔王ジェミニが残る人員を皆殺しにする作戦だろう。


「・・・・・・やってくれるぜ」


 速見はギリリと奥歯を噛みしめた。




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