総力戦
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ゆっくり、ゆっくりとソレは歩き続ける。その歩みは遅く、しかし決して止まる事はないのだ。
かつて勇者と呼ばれたその化け物は、まるで何かに導かれているかのように虚空の一点を見つめて歩み続ける。その両目からは絶えず七色の光が漏れ出しており、周囲を不気味に照らし出していた。
「・・・ようやく見つけましたよ勇者様」
どこか悲しげな感情を含ませた女性の声。どこか聞き覚えのあるようなその声に、化け物はハッと振り返った。
青白い月光を受けて、白く輝く金属鎧。燃えるような赤髪がフワリと風になびく。キッと見開かれた大きな瞳から、ツゥーっと一筋の涙が流れ出た。
麗しき赤髪の女騎士、アンネ・アムレットは無言で腰の剣を引き抜く。鞘と刀身が擦れる澄んだ音と供に姿を現したのは白銀の刃。対魔物用に銀のコーティングがされた名剣。
女騎士のあまりの美しさに、感情を失った筈の化け物は思わず息を呑む。そんな化け物を悲しげに見つめ、騎士アンネは鋭く踏み込んだ。
踏み込みの勢いを乗せて、白銀の刃が振り抜かれる。
極限の鍛練の果てにたどり着いた剣士の極致。人間としての限界を体現したその華麗な一撃も、残念ながら人を超えた化け物にはいささか遅すぎる。
化け物は迫り来る斬撃を余裕を持って回避しようと足に力をこめ・・・背後から背中に着弾した光の弾丸にて化け物は体勢を崩す。
体勢を崩した化け物の首筋を、容赦なく斬り付ける白銀の刃。剣を振りきったアンネは、流れるような動きでくるりと体勢を入れ替えると、化け物の胸元を蹴りつけながら反動で距離を取る。
「今だ! やれ!」
鋭い声を発したアンネ。その視線の先には木の陰に隠れていた二人の人物が・・・。
「アナタがエラそうに命令しないでくれますかしら? 行きますわよマルク!」
「はい師匠!」
正義の魔法剣士、エリザベート・リッシュ・クラージュ。そして弟子のマルク。二人は首を裂かれてふらついた化け物に駆け寄ると、同時に同じ攻撃魔法を発動する。
「「 ”サンダーボルト” !!」」




