邂逅 3
フィエゥはそっと紅茶を啜り、静かに目を閉じたままニコリと微笑んだ。
「簡単な話ですよ。魔神の復活に関しては私にとっても本意ではありません。このアミュレットの守護者として、魔神の復活は全力で阻止するつもりです」
「では、アナタはアタシ達に協力するつもりだと?」
クレアの問いかけに、フィエゥは首を横に振った。
「魔神の復活を阻止する事は絶対です・・・そして、その為にはアナタ方と協力するのが一番効率が良いのもわかっています。しかし、私はまだアナタという存在を認めてはいないのですよ。クレア・マグノリア、偽りの王よ」
フィエゥの侮辱とも取れる言葉を聞いて、しかしクレアは何のリアクションも起こさなかった。ただ無言で足を組み替えると、手元にあったカップに口をつける。フィエゥはゆっくりと、しかしハッキリとした口調で言葉を続けた。
「魔神を自称するアナタは、しかし自分の事を生き延びた魔王のなれの果てだと従者に説明している・・・そうですね?」
クレアは何も返さない。フィエゥはそんなクレアの無反応を意に介さないように言葉を続ける。
「アナタは本物の魔神では無く、そう自称しているだけの存在・・・さらに生き延びた魔王だというその過去さえ偽りなのです」
クレアはまたもや何も答えない。しかし隣りに座っていた速見が困惑したように口を開いた。
「・・・どういう事だ?」
クレアは速見に対して、自分は元魔王であると話しをしていた。フィエゥはその過去すら偽りだという・・・。しかし意味がわからない。仮にクレアが魔王であるというのが偽りだとして、何故速見にそんな嘘をつく必要があるというのだろう。
「そのままの意味ですよ速見さん。クレア・マグノリアは魔王ではない・・・そもそも、魔王とは魔神に使える12体の使徒の総称。仮に魔族を統べる存在が居たとして、その魔人が魔王と呼ばれる訳では無いのです」
「魔神に使える12の使徒?」
「ええ、そんな存在が魔神の復活を阻止するなんておかしな話でしょう?」
そしてフィエゥはゆっくりと目を開いた。瞳からあふれ出した七色の光りが、正面に座っているクレアを照らし出す。
「そのうっとうしい光をアタシに向けないでくれるかしら? 正直不快よ」
「答えなさいクレア・マグノリア。アナタの目的は何? それがわからない限り、私はアナタ方に協力する事はできません」
「へぇ・・・もしその答えがアナタの望む答えじゃなかった場合はどうするのかしら?」
クレアがそう言った次の瞬間、目の前の机が吹き飛んだ。いつの間にか立ち上がっていたフィエゥの右手が真っ直ぐクレアに向けられている。その掌には、彼女の瞳から発せられているものと同種の七色の光が纏わり付いていた。
「あらあらやる気ね、魔神の力を得ているからって・・・果たしてこのアタシに通用するのかしら?」
対するクレアも臨戦態勢に入っている。顔には獰猛な笑みが張り付き、体中の骨がバキバキと音を立てて変形していく・・・・・・。
一触即発の雰囲気の中、音も無く立ち上がった速見がいつの間にか手にしていた”無銘”の銃口をフィエゥに突きつける。
「そこまでにしてくれや守護者のねーちゃん。一応こんな女でも俺のご主人様でね・・・争いになるなら、俺はアンタを撃たなきゃいけなくなる」
しばらく無言に視線を合わせるフィエゥと速見。やがてフィエゥがその瞳を静かに閉じた。
「・・・このレベルの実力者相手に二対一で勝てると思うほど、私は傲慢ではありません・・・ここは一旦引きましょう」
「あら? 逃がすとでも思っているのかしら?」
「ふふっ・・・生憎と逃げ足において私に敵う存在はありませんよ」
次の瞬間、人ならざるスピードでフィエゥに飛びかかるクレア。しかしその時には既にフィエゥの姿は無く、振り下ろされたクレアの拳が空を切った。
――― 覚えておきなさいクレア・マグノリア。私はアナタという存在を決して認めません。
その言葉と供にフィエゥの気配は完全に消え去った。誰もいなくなった空間を睨み付け、クレアはボソリと呟く。
「・・・・・・苛つく女ね」
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