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勇者と・・・?

 斬り付けられた勇者は、しかしまるで痛みなど感じてはいないように冷めた瞳でタケルを見据えた。すでにその傷は癒えている。


「煌めけ”暁の剣”」


 勇者が聖剣を振りかぶる。それに答えるようにタケルも草薙の剣を突き出した。


 宙で刃が交差する。周囲に響き渡る凄まじい金属音は、最早剣がぶつかる音とは思えぬほどに鮮烈だった。


 続く剣撃が一線、二線・・・もはや視認する事すら難しいスピードで刃同士がぶつかり合う。


 両者の実力は拮抗しているかに見えた。しかしやはりと言うべきか、剣術に一日の長があるのはタケル方、ただ力任せに振り回すだけでない確かな技術が、徐々に勇者を防戦に追い詰めていく。


(いける・・・まだ勇者の体には魔神の力が馴染みきっていない! 今ならわずかにオイラの全力の方が上だ)


 タケルは勝利を確信する。


 力・スピードはほぼ互角、タフネスはわずかに勇者が上・・・しかし長年の戦闘で培った技術が、勇者の攻撃を一撃たりともタケルの体に触れさせはしなかった。


 今ならば勝てる・・・否、勝つためには今たたみかける他ない。


「”破魔の法其の二 魔封じの楔”」


 展開された紫色の鎖が勇者の体を拘束する。この術に勇者の膂力を封殺できるような性能は無い、拘束を解くのに一秒もかからないだろう。


 しかし一瞬でも動きが止まればそれで十分だった。タケルは草薙の剣を大きく振りかぶってから踏み込んだ。


「さらばだ今代の勇者・・・貴様の業はこの私が受け継ごう!!」


 振り下ろされた刃が勇者の体を両断する。どさりと力なく地に崩れた勇者の死体を見下ろしながら、返り血で真っ赤に染まったタケルは、何かを決心したかのような厳しい表情を浮かべていた。


「・・・・・・さて、生命の宝球を回収しないと」


 宿主が死んだくらいで魔神の遺物が破壊されるとは考えられない。ならば、魔神の復活を阻む意味でも宝球は回収しなければならないだろう。


 そう考えた次の瞬間、ズブリという湿った音と供にタケルの胸部が背後から何者かに貫かれた。


「・・・・・・え?」


 不思議そうな表情で自らの胸から飛び出た右腕を凝視するタケル。その右腕にはドクドクと脈打つ彼の心臓が握られていた。


 青ざめた顔でゆっくりと振り返る。そこに居たのは両断された勇者の半身、それが高速で自己再生を行っている醜い姿であった。


「・・・・・・ハハッ、ここまで浸食が進んでいたっての・・・か・・・よ・・・」


 目の前が暗くなっていく。


 薄れ行く意識の中、タケルは自身の心臓が握りつぶされる湿った音を聞いたのだった。






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