表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

154/234

勇者と勇者 3

睨み合う双方。ヒュウと冷えた風が草木を揺らす。


 先に動いたのは勇者。全く予備動作を見せぬ踏み込み一歩で、十メートルほどの距離を詰めてくる。その勢いに乗せて無造作に叩き込む、聖剣の一撃。当たれば必殺のその一撃を、タケルは熟練の剣捌きで見事にいなした。


 いくら草薙の剣といえども、魔神の力をまともに受け止めては、剣は無事でもタケル自身の体がもたない。なればこそ剣と剣が触れあうその瞬間に、体を入れ替え、くるりと手首を反転させて力を受け流した。


 勇者の尋常ならざる力に自身の力を添えて相手の態勢を崩す。体の崩れきった隙だらけなその首筋目がけて、タケルはくるりと手首を翻して上段から刃を振り下ろした。


 刃が肉を切り裂く音が響き渡り、勇者の首筋から派手に血が噴き出した。しかし攻撃が成功したのにも関わらず、タケルは困惑したかのような表情を浮かべている。


(・・・今の間合いでこのオイラが首を切り落とし損ねた? 馬鹿な、このタイミングでならドラゴンの首ですら両断してみせるというのに・・・)


 柔らかな首の肉に、草薙の剣の刃がめり込んだその瞬間、タケルの手元に伝わってきたのは形容しがたい違和感。両断する筈だった勇者の首は今も尚繋がっており、タケルの手には言いようのない不快な痺れが残っていた。


 不意に勇者がその顔をタケルに向ける。


 先ほど首筋を裂かれたというのに、その顔には何の表情も浮かんではいなかった。即死の一撃ではないにしても、今も鮮血が吹き出し続けているその傷は致命傷ではあるはずだ。しかし勇者は吹き出す鮮血をまるで気にも止めずに、その崩れた態勢からタケルに向かって無理矢理剣を突き出した。


 不十分な態勢からの一撃。不意を突かれたタケルは反射的に剣でソレを受け止めるが、次の瞬間にはその行動が間違いだったことを悟る。


 あんな態勢からの一撃に込められた力は凄まじく、強い衝撃が刃を通してタケルの体に伝わる。


 ふわり。


 タケルの体はあまりにも呆気なく宙に浮かんだ。勇者は素早く立ち上がると、追撃とばかりに宙に浮かんだタケルの体を蹴り飛ばす。


 蹴り飛ばされたタケルは数メートル離れた地面に勢いよく叩きつけられた。


 意識が朦朧とする。


 タケルは悲鳴を上げる体を必死で動かして何とか立ち上がった。キッと目の前の勇者を睨み付け・・・そして自身の異常に気がついた。


(・・・右手の感覚が、ない?)


 そっと右手を見下ろす。


 そこにはあらぬ方向に折れ曲がった自身の右腕のすがた。当然握り締めていた草薙の剣はどこかに手放してしまったようだ。


(・・・・・・まずいな、これは)


 つっーと額から一筋の汗が流れ落ちる。


 ここから勝ちを拾えるヴィジョンが見えない。


 絶体絶命の窮地に立たされたタケルの姿をみて、血だらけの勇者は歪に笑うのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ