勇者と勇者 2
ゆらり
勇者の姿が揺らめいた。
次の瞬間、いつの間にかタケルの背後に回り込んだ勇者が無造作に聖剣を振るう。そこには殺意も闘志も無く、ただ目の前にいる邪魔な虫を払うかのような何気ない一撃。
しかし空気を切り裂くその刃は常人では視認すら出来ないスピードでタケルの首元へと迫った。
「うぉっ!?」
首元に迫った刃を紙一重で回避するタケル。
背後から迫った刃が見えた訳では無い。
ただ積み重なった戦の記憶がタケルの体を無意識に動かしたのだ。
追撃。
勇者の聖剣が再び振るわれる。
剣の技術もクソもない素人の一撃。しかし、その人にあらざる膂力により振るわれた剣は、どんな剣聖の一振りよりも尚速かった。
態勢が崩れた今の状態でこの一撃を回避することは不可能。
一瞬で状況を判断したタケルは体の前に自身の剣をねじ込み盾とする。遅れてやってくる衝撃。剣と剣がぶつかる甲高い音。そしてタケルは後方に思い切り吹き飛ばされた。
体が地面と平行に飛んでいる。
恐るべき力。しかし驚くには値しない。
何せ相手はあの魔神の力を有しているのだ。むしろ今の一撃で死んでいない幸運を喜ぶべきだ。
インパクトの瞬間に全身の力を抜いたおかげで体にダメージは無い。タケルは空中でくるりと身を翻すと身軽な動作で着地した。
「ふんっ、なっちゃいねえな勇者くん。そんな不器用な剣じゃあオイラは殺れねえよ?」
挑発するようにそう言ってタケルは自身の剣を横に一閃した。
先の勇者の一撃とは対照的な、力の抜けた流れるような刃。周囲に生えていた背の高い草々がはらりと地に落ちる。
「本物の剣術ってものを教えてあげようじゃあないか」




