勇者と勇者
タケルの名乗りを受けて、勇者はようやく彼の事を敵だと認識したようだ。ひどく緩慢な動作で腰元の聖剣を引き抜くとその切っ先をタケルに向けた。
一見やる気のなさそうな其の様子。しかし歴戦の猛者であるタケルは勇者の体を侵している魔神の力を過小評価しない。
故にやるべき事は先制攻撃。タケルは高速で術を展開させた。
「”破魔の法其の二 魔封じの楔”」
紫色に発光する鎖が勇者の体をがんじがらめに拘束する。しかしこの程度の術で魔神の力を得た勇者を拘束できるとは思っていない。そしてタケルは間髪入れずに次の術を展開する。
「”破魔の法其の一 竜滅の矢”」
タケルの周囲に展開された薄く発光する矢が10本。竜さえ殺す威力を秘めたそれらが一閃に勇者に襲いかかる。
しかしまだタケルの攻撃は終わらない。
たたみかけるような連撃。
反撃の隙など与え無い。
「”破魔の法其の三 鬼殺しの雷”」
「”破魔の法其の四 邪気払う虎”」
「”破魔の法其の五 幻影の一撃”」
立て続けに放たれる攻撃。
勇者の周囲には土煙がモウモウと舞い上がり、その姿を覆い隠している。
その術の威力は、まともにすべて喰らえば魔王クラスの存在ですら即死という代物・・・しかし土煙が晴れたその先にはダメージを負った様子を見せない勇者が仁王立ちしていた。
「・・・・・・やはりか」
強くなっている、確実に。
恐らく勇者の体が魔神の心臓と適合をしてきているのだろう。
少しづつ勇者は魔神の存在へと近づいている。
進行のスピードは遅くとも、このまま勇者を放置していればいづれは魔神が復活するだろう。
”魔神の体”と”魔神の魂”。この二つの異物を統合させるまでも無く、勇者単体で魔神が復活可能なのは、ひとえに勇者の魂が魔神との相性が良かったという事に他ならない。
(・・・クレア・マグノリアはこの事実に気がついているのか? ・・・いや、どうであろうと関係ない。何故ならここでオイラが決着をつけるのだから)
決意を新たに勇者を睨み付けるタケル。
すると今まで勇者がおもむろに口を開いた。
「・・・攻撃は終わったか? ならば次はこちらの番だ」
ニヤリと歪に口元が歪む。
勇者の両目から放たれている七色の光が、より一層その色を強めたのだった。




