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ケジメ

「・・・・・・では今後の方針はコレで問題ないな? 勇者様の探索は明日からとする。今日はみんなゆっくり休んでくれ」


 フスティシア王国、王城の一室。


 今後の方針について話し合っていた一同。話し合いを仕切っていたアンネの言葉に皆頷くと立ち上がった。


 話し合いに熱が入ってしまい、時間がかかってしまった。夜もかなり深まり、そろそろ睡眠をとらないと明日の活動に支障が出てしまうだろう。


「ふぅ、すっかり遅くなっちまったねぇ。そいじゃオイラはそろそろ眠くなってきたんでお先に失礼するよ」


 そう言ってぐっと伸びをした後にひらりと手を振って部屋から出て行くタケル。その後ろ姿を見送った後、今まで沈黙を貫いていた騎士アルフレートが疑問を口にした。


「・・・つかみ所のない男だね、彼は。騎士アンネとフェデーレ嬢は有名だから以前から知っていたのだけれど・・・彼はどういった素性の人物なんだい?」


 アルフレートの言葉に思わずといった風に顔を見合わせるアンネとカテリーナ。タケルの素性と言われても、彼がSランクの冒険者である事と恐ろしく腕が立つことくらいしか二人は知らないのだ。


 その様子を見ておおよその事を悟ったアルフレートは少し何かを考えるように首を捻った。


「なるほど、お二人も知らないと。貴女たちや勇者殿と行動を供にするくらいなのだから彼もかなり腕が立つのだろう。しかしそれならば少し奇妙だ。Sランクの冒険者で、しかも魔王討伐に貢献できるほどの実力者・・・ともなればその名を広く知られていても不思議では無い。しかし私は彼の名を少しも聞いたことがない」


 そう、あれだけの実力がある冒険者ならば多少の噂くらいは聞いている筈なのだ。Sランク冒険者は冒険者の花形・・・全く噂も聞かないというのは妙な話だ。


 アルフレートはしばらく考え込んだ後、ふっと表情を崩して静かに首を横に振った。


「・・・いや、これから一緒に戦おうというのに無駄な疑いをかけるものではないな。すまない二人とも、今の話は忘れてくれると助かる」


「いえ・・・確かに私たちも浅はかでした。今まで彼の過去を詮索しようとすら考えなかったのですから」


 神妙な顔で頷いたカテリーナ。しかし彼女もアンネも、タケルの過去について詮索するのは今このタイミングでは無いという意見には概ね賛成だ。


 夜は更けていく。


 皆それぞれ自分の部屋に戻るのであった。










「・・・・・・それで? 君はこんな夜中にどこにお出かけなのかな?」


 城門にもたれかかって何気ない様子で目の前の人物に問いを投げるアルフレート。草木も寝静まる夜更け、その視線の先には気まずげに頭を掻く完全武装のタケルの姿があった。


「いやぁ・・・まいったねえ。一応気配は消して部屋から出てきた筈なんだけど・・・」


「うん、確かに君の気配の殺し方は見事だった。暗殺を生業にしているものでもこれほどの技術は持っていないだろうね・・・まあ、今回は相手が悪かったよタケル」


 そしてアルフレートは静かに腰元の剣の柄に手をかけ、もたれかかっていた城門から離れて真っ直ぐに立った。


 ただ真っ直ぐに立っているだけなのにその立ち姿には一切の隙が無く、ただそこに居るだけで圧力が掛かるようだ。


「さて、訳を話してもらおうか・・・場合によってはこの”史上最強”が君の相手になるよ」


 放たれる圧倒的な威圧感に、タケルは降参だとばかりにその場で両手を上げて敵意が無いことを示す。


「ちょっとちょっと、そんなマジになんなって・・・別にオイラはお前達と敵対するつもりはねえんだからサ」


「ではこんな夜中にどこにいく?」


 アルフレートの再びの問いに、しかしタケルは首を横に振る。


「すまねえがそれは言えない・・・オイラ一人で片を付け無くちゃいけなねえ仕事があるんだ。まあ、ケジメみたいなもんだよ、悪いけどこのまま黙って行かせてはくれねえか?」


「もし断ると言ったら?」


「そいつはしょうがねえな。戦ってでも押し通るさ」


 人類最強を前に、それでも押し通るとさらりと言ってのけるタケル。


 その場にピリピリとした緊張感が走る。しかし不意にアルフレートが剣の柄にかけていた手を外した。


「私は君のことを知らない・・・しかし先ほど君の仲間達と、君の過去を詮索しないと約束した所なんだ。だから今回に限り騎士アンネの顔を立てて君を見逃そう。行くが良い、何をしに行くのかは知らないが、君の幸運を祈っている」


「・・・・・・変な男だね、どうも。礼は言わないよ」


 そしてタケルはくるりと背を向けて、夜の闇に消えていったのだった。




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