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ショウタイム

「オォオォオオ!!」


 人ならざる声帯より迸る、大気を揺るがすような咆哮。


 漆黒の鎧の下で継ぎ接ぎの筋肉が大きく隆起する。数々の英雄の遺体をつなぎ合わせ、その性能の全てをただの純粋な膂力へと変換させた。それが暗黒騎士フェアラートの正体。 


 身体能力が高いというシンプルな能力、故に対処が難しく、そして強い。


 攻撃を回避されたフェアラートは、突き出したランスを有り余る筋力で無理矢理真横に振り抜く。


 ブンと音を立てて振るわれたそのランスを、ジェミニは間一髪でしゃがんで回避する。そのままバックステップで距離をとったジェミニ。その必死な姿からはすでに先ほどまでの余裕は感じられない。


「・・・今度はずいぶんと必死に避けるじゃないか。もうご自慢の双子は品切れか?」


 嘲るようなフェアラートの言葉に、ジェミニは大仰な様子で肩をすくめて返答をする。


「おやおや、私の可愛いジェミニのアンコールですカ・・・そんなに求められては私としまシテも期待に応えない訳にはいきませんネエ」


 そしてジェミニは両手を天高く掲げると大きく手を二回叩いた。


 気温が一気に下がったように感じられる。鋭く息を吐き出してフェアラートが目の前の魔王を凝視すると、次の瞬間ジェミニの周囲がゆらゆらと揺らめいて見えた。


「紳士、淑女の皆さン! さあサアこれよりお目に入れますのはこの魔王ジェミニ一斉一大の大舞台! 最高のショウタイムを御覧に入れましょウ!」


 ゆらゆら


 ゆらゆら


 空気が揺れる。


 道化の姿がゆっくりと世界に滲んでいき・・・やがてそれは二つに分かたれた。


 二つが三つ


 三つが四つ・・・・・・


 数えるのが面倒になるほどの道化達が分裂し、やがては辺り一帯が大量のジェミニの姿で埋め尽くされる。


「見渡す限りの魔王の軍勢・・・いやア、これは酷い。悪夢ですネエ。さて、暗黒騎士さん。アナタはこの軍勢に勝てますカ?」


 ニヤリと、動かぬはずの道化の仮面が、意地悪く笑ったような気がした。




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