ロイ・グラベル 3
◇
「ふふっ・・・懐かしい事を思い出したものだ・・・」
ロイは研究室で一人呟いた。
師の元で過ごしたわずかな時間は彼の人生において掛け替えのない宝物だ。あれからしばらくの時が過ぎた・・・ロイは人から”天才”と呼ばれ、世界でも屈指の魔法使いに成長したが未だにその腕は師に届かない。
かつてセシリアは魔法の事を「敗北が運命づけられた技術」だと称した。それは決して彼女が皮肉屋だからこそ魔法という技術をそう嘲ったのでは無い。彼女は人間という種族にあるまじき高みにまで魔法を極めてしまった。極めてしまったが故に見えてしまったのだろう。この技術体系の矛盾が。
しかし彼女は絶望しなかった。
論理的には不可能であると理解しながらも真の不死を目指して魔法の探求を続けているのだ。
不可能であると知りながら、それでも抗い続けるその姿にロイは惹かれた。魔法という概念すらぶちこわして、まだ見えぬその先へ行こうというその無謀さに強烈に憧れたのだ。
(私は師に習い、魔法という概念そのものを超える・・・その為の研究だ。しかし人里離れたこの研究室での研究に限界が見えてきた事もまた事実)
その時、長らく人の訪れる事の無かったロイの研究所の扉にドンドンと大きなノックの音が響き渡った。
「・・・誰だい? カギはかかっていないから勝手に入っていいよ」
ロイが声をかけると扉がゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは頭の禿げかけた小さな中年男。男は神経質に頭をなでつけるとニコリと感じの良い笑みを浮かべて口を開く。
「初めましてロイ・グラベル殿。私は偉大なるグランツ帝国の使者、パウル・シルトクルーテでございます。本日は良いお話を持って参りました」
◇




