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戦果

「ホホホホホ! まあまあなんと無様な事か。これが帝国最強を自称する男だとは笑いものだなあ将軍?」


 艶のある笑い声が謁見の間に響き渡る。


 グランツ帝国女帝クラーラ・モーントシャイン・グランツ。その切れ長の眼から覗く金色の瞳が獲物を狙う蛇のようにねっとりと目の前の老兵を睨め付けた。


「・・・言葉もございません陛下。我輩の敗北は事実でありますので」


 そう言ってボロボロの老兵・・・帝国最強の指揮官、レイ・ヴァハフント将軍は深く頭を下げる。


 女帝はそんないつになくしおらしい将軍の姿を見てまたホホホと笑い声を上げた。


「あぁ可笑しい。いつもの豪毅さはどうしたのだ将軍? 嫌にしおらしいではないか。・・・まあ無様に全滅したにしてもちゃっかりと自分だけは生きて帰ってくるあたり、貴様はやはり強かな男よのぅ。大義であるぞレイ・ヴァハフント、よくぞ生きて戻った。貴様まで死んでいたら態勢を立て直すのに10年はかかっただろう」


 褒めて使わす、との女帝の言葉に将軍は再び深く頭を下げる。その額には一筋の汗が流れ出ていた。


 当たり前だ、彼女の裁量次第では今この場で将軍の首が飛んでいた可能性すらあったのだから。


 言いしれぬ緊張感が漂う中、玉座にしだれかかるようにして座っていた女帝は上体を起こすとグッと大きく伸びをした。


「さて・・・パウルよ、今回の戦果はどう見たらよいかの?」


 麗しき女帝の言葉に側に控えていた禿げ頭の秘書官がスッと一歩前に出て頭を下げた。


「恐れながら陛下、今回の件でわかった事は大きく分けて二つです。新兵器スマッシャーは憎きフスティシア王国の軍にも有効であるという点と・・・そしてそのスマッシャーを持ってしても史上最強の騎士、アルフレート・ベルフェクト・ビルドゥただ一人に敗北したという事実です。王国を攻略するためには彼をどうにかする手段を模索する他無いでしょう」


 秘書官の言葉に女帝は頷く。


「まさしく・・・まさしくそこよな。ああ恨めしや騎士の中の騎士。何故あのような男が王国に生まれ出たのやら・・・天とは本当に不平等なものよ」


 課題は大きい。しかし恨み言を口にしながらも女帝の口元には微笑が浮かんでいた。


 なぜなら今回の件ではっきりしたのだ。”アルフレートさえどうにかできれば王国は攻略できる”のだと。


 スマッシャーが開発される前では圧倒的だった戦力差も最早無いも同然。ならばこの課題さえクリアできれば帝国の勝利は現実の物となる。


「・・・やはり強力な個を相手取るにはこちらも同じ条件で戦うしか無い・・・か」


 ちらりと目の前に跪いている将軍の姿を見る女帝。


 レイ・ヴァハフント将軍。彼は確かに帝国内では並ぶモノのいない豪傑だ。しかしその本領は卓越した指揮能力にこそあり、緊切戦闘が苦手という訳ではないもののアルフレートと対抗するには力不足だ。


 であるならば今帝国内部にはアルフレートと対抗し得る実力者はいない。ならばどうするか? 簡単な話だ。国内にいないのならば余所から引き抜けばいい。


「・・・パウル。こちらに与しやすそうなはぐれモノの実力者に心当たりはあるか?」


 取りあえずといった風に秘書官に問いかける女帝。しかし秘書官はその問いを待ってましたとばかりにニヤリと笑みを浮かべた。


「おお、ありますぞ陛下」


「ほう? 準備が良いなパウル。して、その人物とは?」


「噂程度なのですが・・・人里離れた山奥にて一人孤独に魔法の研究に専念している凄腕の魔法使いがいるようなのです。どこの国にも所属しておらず、噂ではちょっかいをかけてきた魔王の手勢を一人で皆殺しにしたとか」


「魔法使い・・・フム、例えアルフレートに対抗する実力が無かったとしても凄腕の魔法使いは引き込んで置いて損はないな。その男の名は?」


 女帝の言葉に、秘書官は少し思い出すように頭を掻きながらその魔法使いの名を口にした。




「確か・・・ロイ・グラベル。そういう名だった筈です」





  

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