書状
「団長! 陛下がお呼びですよ」
執務室で書類仕事をしていた騎士アルフレートの元に、彼の側近である騎士のジェームズがやってきた。
「ご苦労様ジェームズ・・・しかし陛下がこんな時間にかい?」
ちらりと壁に掛かっている時計を確認する。時計の針は夜の11時を指し示していた。
「ええ、時間も時間ですので陛下の寝室にくるようにとの事です・・・では私はこれで。あまり仕事のしすぎは体に毒ですよ団長」
こんな時間まで書類の整理をしていたアルフレートを気遣う部下に彼は笑顔で答えた。
「ああお前もなジェームズ。ゆっくりと休むと良い」
退室する部下の姿を見送ってアルフレートは小さくため息をつくと立ち上がった。こんな時間に呼び出される用件が良い物であった試しがないのだ。
「おお、良く来たアルフレート。こんな時間にすまないな」
フスティシア王国第十二代国王、セサル・フエルテ・フスティシア。
74才の高齢ながらその生気溢れる瞳は対峙するモノに獰猛な獣のごときプレッシャーを与える偉丈夫だ。
今は寝室にいることもあり、いつも王座で身に付けている立派な衣装では無く白を基調としたシンプルな部屋着を身につけている(それでも最高級の布で作られたモノだが)。
「いえ、私は陛下の剣。いついかなる時でも陛下の元へ馳せ参じます」
アルフレートはそう言って深く一礼した。
その完璧な騎士の姿にセサルは何か眩しいモノでも見るように満足げに目を細めるとアルフレートに椅子に座るように指示をする。
アルフレートがセサルと対面するように椅子に座ったのを確認すると、セサルは今アルフレートを呼び出した理由を話し始めた。
「お主を呼んだ理由だがな、今ギルドを通して余の元へ一通の書状が届いたのだ」
「ギルドを通して? では送り主は冒険者ですか?」
「うむ。アルフレートよ、お主は最近話題になっている勇者のパーティを知っているか?」
「勇者パーティ・・・ええ、何でも異世界より召還された勇者が魔王を討伐するために結成したのだとか・・・確か二体の魔王を倒した実績のあるパーティですね」
勇者についてはアルフレートも噂程度に知識があった。魔王を討伐できたという事はそれなりに実力のある男なのだろう。
「その勇者パーティの一人、亡エーヌ王国の騎士長であるアンネ・アムレットからの書状だそうだ」
「アンネ・アムレット・・・一度だけ会ったことがあります。同じ騎士として尊敬できる女性だという印象がありますが」
「そうか、その騎士アムレットからのお主に向けた助っ人の要請だ」
「助っ人・・・私にとすると魔王討伐の協力要請でしょうか?」
魔王討伐の為にアルフレートに助力を請うのは自然な流れだ。何せアルフレートの戦力は史上最強とも称されるほど、味方につければこれほど頼もしい人物もいない。
アルフレートとしても人類の平和を脅かす魔王を討伐するのに力を貸すのは賛成なのだが・・・それでもセサルの騎士であるアルフレートは自らの主人が是と言わなければ動く事はできない。
「いや、今回は魔王の討伐では無く・・・勇者の捜索という事だ」
「勇者の捜索?」
どういう事だろう。勇者が失踪でもしたというのか。
「これを見ると良い」
アルフレートは差し出された書状を受け取るとその内容に目を通す。そこに書かれていたのは衝撃の事実。
「勇者が・・・魔神の力に侵された?」
「左様、つまり今回の敵は魔神の力を宿した勇者という訳だな」
「古の災厄・・・魔神。その力を宿した勇者が相手という事は私に助力を請うのも納得がいきますね・・・それで陛下、私はどう動けば?」
アルフレートの言葉にセサルは少し考えるような仕草を見せた。
「・・・・・・最近は周辺諸国の動きも魔王らの手によって鈍くなっている、お主がしばらく国を開けても問題はないだろうが・・・書状だけでは詳しくは状況が理解できない。一度勇者パーティの話しも聞かねばならぬだろうな」
そしてセサルは決断する。
「話しを聞くために勇者パーティを我が国に招待する。その話し合いの場にお主も同席するのだ」
「はっ、陛下の仰せのままに」
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