秘儀 3
フムル族の集落。来る化け物の襲来に備えてせっせとバリケードを作成する大人達を手伝いながら、フィエゥは不安を感じていた。
大好きなアーテファと尊敬する母。二人の実力を信頼していない訳ではない・・・無いのだが、それでも先ほどから胸騒ぎが止まらないのだ。
「お母さん・・・アーテファ・・・」
小さな声で二人を呼んでフィエゥはギュッと首にぶら下げていたアミュレットを握り締める。ソレは母から受け渡されたフムル族のシャーマンに代々伝わる秘宝である。
次の瞬間、握り締めたアミュレットからビリリと何かがフィエゥに流れ込んだ。
(なに・・・これ・・・)
脳内に流れ込む映像。
触手のようなモノに腹部を貫かれる母親。そして血まみれで化け物と交戦しているアーテファの姿・・・。
そしてフィエゥは走り出した。その様子に気がついた族長が呼び止めるが、先ほどの映像を見てしまったフィエゥは止まることができなかった。
走って
走って
走って
裸足の足が傷だらけになるのも構わず走って。
そしてフィエゥはたどり着いた。シャーマンの神殿。フムル族の神域で、今まさに大好きなアーテファが化け物の一撃を受けて地に倒れるその瞬間を彼女は見てしまった。
「アーテファ!?」
喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
感情の暴走。
それに呼応するかのように首にぶら下げていたアミュレットが光を放った。
フィエゥは自分でも訳がわからぬままにギュッとアミュレットを握り締めて叫声を発した。握り締めたアミュレットからじわりじわりと謎の光がフィエゥの体に浸食していき、やがてはその全身を包み込んで大きく輝きを増した。
「・・・フィ・・・エゥ?」
倒れたアーテファは朦朧とする意識の中そんなフィエゥの様子を見上げた。
化け物もそんな彼女の異常性に気がついたのか、先ほどまで交戦していたアーテファから視線を外してその白濁した瞳でじっとりとフィエゥを睨め付ける。
「ギュルォオオオ!!」
化け物は奇声を発しながら発光するフィエゥに目がけて駆けだした。
だんだんと距離を詰めてくる化け物に、フィエゥの体はより一層その光を強めていき・・・やがては交差するフィエゥと化け物、その二つの体を強烈な光が包み込んだ。
目を突き刺すような激しい光。視界が阻害されて状況がつかめない。
やがてその光が収まるとその場所に立っていたのは静かに瞳を閉じたフィエゥただ一人だった。化け物の姿はどこにも見当たらない。
「・・・フィエゥ?」
アーテファが掠れた声で彼女の名を呼んだ。
そしてフィエゥはゆっくりとその閉じられていた瞼を見開く。
その瞳の奥からは七色に輝く不審な光が放たれたのだった・・・。
◇




